宝生君とは、もう一度同じ図書館で勉強会をした。
 私も宝生君も、ものすごい集中力だった。
 終わったあとは、また休憩室でおしゃべりした。
 その日のお茶菓子は、クッキーだった。

 中間試験も無事終わって、解答用紙も全部帰ってきた。
 私の学年順位は3位。
 悪くないと思う。

「月島、助かったぞ」

 Limeの音声通話越しの宝生君の声は、弾んでいた。
 学年順位がなんと12位まで跳ね上がったそうだ。

「いや、やっぱり元々頭がよかったんだよ。次回のテストは、私抜かれるかも」

「いやいや、あの3教科のまとめのおかげだ。次回は全教科頼む」

「何言ってるのよ。数学と英語は、こっちが作ってもらいたいくらいよ」

 そもそも苦手3教科の点数が跳ね上がっただけで学年12位って、もともと他の教科も頭もよかったっていうだけの話だと思うけど。

「まあまた次回も頼む。礼はちゃんとするから」

「お礼とかはいいんだけど……」

 こっちだっていろいろとご馳走になってるわけだし。

「そうだ、思い出した。俺行きたいところがあるんだ。一緒に行かないか?」

「どこ?」

「レストランチェーンでな、サンゼリアって知ってるか?」

「……もう驚かないけど」

 サンゼリアは緑色の看板でおなじみの、格安イタリアンの全国チェーン店だ。
 高校生御用達ではあるんだけど……。

「もしかして、行ったことない?」

「ないな」

「……そう」

 そりゃマクドに行ったことないんだったら、不思議じゃないのか。

「わかった。一緒に行こう。私、今週は土日両方バイトだから無理だけど、次の週でもいいし」

「そうだな。また連絡してくれ」

「うん、わかった」

 音声通話を終了して、私は小さく嘆息する。
 また今度、一緒に食事かぁ。
 なんだかそれって……。
 いや、考えるのやめよう。
 どうせ向こうは、そんなこと全然思ってないんだから。

        ◆◆◆

「さあ華恋、今日は好きなだけ飲んでいいからね」

「三宅さん、ドリンクバー奢るからって、そのフレーズはおかしいと思う」

「ハリーはいちいち細かいなぁ」

「高校生の場合、普通は『好きなだけ食べていいからね』じゃないの?」

 テストも終わったので、私達3人は学校帰りにファミレスに来ていた。
 いろいろ教えてもらったお礼にと、柚葉がドリンクバーをご馳走してくれるらしい。

「じゃあ僕が山盛りポテトフライを頼むから、3人でシェアしよう」

「わたしはハンバーグとかでもいいよ」

「シェアしにくいでしょ?」

「もう本当に2人とも仲がいいよね。いいかげん付き合っちゃえば?」

「つ、月島さん、違うんだ! 僕と三宅さんはそんなんじゃないよ!」

「だからもう……ハリー、あからさまに焦りすぎなんだって」

 柚葉は退屈そうに、ぶどう色の液体をストローで吸い上げる。

「でもさあ、もうすぐ夏だよ。高2の夏だよ。人生で1回きりの」

「高1も高3も、1回きりだけどね」

「だからハリーはうっさいって。やっぱりさぁ、カッコいい男の子といろいろイベントがあってもいいよね。海行ったりさぁ、プール行ったり、花火大会とかさぁ」

「三宅さんの場合、補習が無いといいけど」

「あーもう! 現実に引き戻さないでよ」

「やっぱり皆、普通はそんな感覚なのかな……」
 私はちょっと違うカテゴリーにいるのかもしれない。

「華恋はそうは思わない?」

「そうじゃないけど……ほら、うちの場合経済的にきついから、もし特待を外れたら多分学校をやめないといけないのね。だから勉強も手が抜けないし、バイトもそう。今はそれ以外のことに、余裕がないんだよ」

 この2人には母親の事とか、うちの経済状況を話してある。

「そっかー。でも夏休みもあるしさ、華恋も1日ぐらいはなんとかなるでしょ?」

「それはもちろん」

「じゃあ一緒にどっか遊びに行こうよ。カッコいい男の子はいないかもだけどさ」

「僕は、そのカッコいい男の子のカテゴリーに入ってないんだね」

「入ってると思ってるの?」

「思ってないけどさぁ……」

 2人のコントを聞きながら、私はさっきの柚葉の言葉を思い出していた。

『カッコいい男の子といろいろイベントがあってもいいよね。』
 
 長身のイケメンで、俺様でちょっと意地悪で。
 でもちょっと可愛いところがあって、それがまたギャップで。
 さり気なく優しくて、一緒にいると包み込んでくれるような男の子。
 
 私はそんな自分の中の思いをどうしていいかわからず、氷の溶けたアイスティーをストローで意味もなくかき回していた。