「お、これ美味いな」

「本当? よかった」

 どうやらお気に召したらしい。
 私もホッと一安心だ。
 
 ゴールデンウィーク明けの平日。
 いつもの市立図書館の休憩室で、私の前に宝生君が座っている。
 テーブルの上には、缶コーヒーとペットボトルの紅茶が置かれている。

 何か作ってくれ、といいながら、あれから宝生君は特に何も要求してこなかった。
 ひょっとして、気を使ってくれていたのかもしれない。
 そう思うと、なんだかすこし嬉しくなった。

 ただあまりにも何も言ってこなかったので、こっちから「パウンドケーキでも作ろうかと思うんだけど、食べる?」ってLimeで聞いたら、「食べたい」と速攻で返事を送ってきた。
 
 ひょっとして、待っていてくれたのかな……。
 そんなことを思うと、また胸が少し苦しくなった。
 だめだ、これ放っておいたら勘違いするヤツだ。
 気をつけないと……。

「これ、上に乗っかってるの、アーモンドスライスか?」

「そうそう。ナッツ類、大丈夫だった?」

「ああ、好きだな。特にアーモンドが。香ばしくて美味い」

 確かに小型のケーキ型で焼いたけど、彼は既に半分以上平らげていた。
 これぐらいのもので喜んでくれるんだったら、安いものだ。
 材料を混ぜてアーモンドをのせて焼くだけだし。

「私も一切れ、もらっていい?」

「もちろんだ。ていうか、自分で作ったやつだろ?」

 二人でケーキと飲み物で談笑する。

「来週から中間テストだよね。勉強会する?」

「ああ、そうだな。どこがいいかな」

「それなんだけどね、ここの小会議室、予約しといたんだ」

「え? そんなことができるのか」

「そう、できるんだよ」

 この市立図書館は、会議室がいくつかある。
 時間帯は限られるが、予約制で小会議室を一般開放している。
 ただし高校生が利用できるのは、平日の週2回で1コマ90分。
 予約は2週間前からネットで予約可能なので、一応2日分予約をしておいた。

「それに、なんと言っても無料だしね」

「そんなサービスがあるんだな。知らなかったぞ」

「そう? 結構知られていて、競争率高いんだよ。それで……この日って、都合いいかな」

 私は自分のスマホで、予定が記載されたメールを彼に見せた。

「大丈夫だ。その日は特に予定もない」

「よかった。じゃあまたここでだね」

「ありがとう。助かる」

 勉強会か……どうやってやろうか。
 現代文、古典、世界史が苦手だって言ってたよね。
 基本、全部暗記物だから、なにかまとめたものを作ってあげた方がいいかな。
 私はそんなことを考えていた。

        ◆◆◆

 数日後、授業が終わってから私は学校近くのファミレスにいた。
 いや、私だけではない。

「ねえ華恋、これどうやってやるの?」

「三宅さん、あんまり月島さんの邪魔しちゃ駄目だよ。」

「なによ、じゃあハリー教えてよ」

「ちょっと見せてみて」

 ファミレス内では、別の勉強会が開催されていた。
 柚葉とハリー君と3人、授業が終わってからここへやってきた。
 ドリンクバーを注文して、教科書を開いて勉強している。
 しかし……私はなかなか捗らない。
 柚葉からの質問攻撃にあっていたからだ。