「抹茶ケーキとかパフェ、あんみつとか小倉ホットケーキとか。もちろん飲み物は抹茶だけでなく、コーヒーや紅茶もある。要はカフェ代わりにF1層に利用してもらおうと考えたんだよ」

「ああ、いいアイディアだよね。しかも立地がいいから、若い人たちも多いし」

「そう。例えば映画を見たあと何か飲み物をって思うと、大体カフェとかが多いだろ? そういった層を取り込むんだ」

「なるほど」

「そういった客がメニューを見て、『あ、やっぱりお腹も空いてるから麺類でも食べようかな』となれば、また客単価もあがる。それにこの間も言ったけど、女性が来るところには男性も集まる。その男性客が食事をしてくれれば、なお良しだ」

「いろいろ考えてるんだね」

「さっき入店したとき、ざっと客層を見たんだけど、結構若年層も多かったんだ。それも女性客が。だからとりあえずは、成功しているみたいだ」

「へぇー、なんかさ、そういうの面白そうだよね。データを集めて仮説を立てて、実行してフィードバックして。学校の勉強なんかより、ずっと楽しいかも」

「……俺は少なくとも、そう思ってるよ」

「ねえ、もっといろいろ教えてよ。」

「えっ?」

 宝生君は意外そうな表情をした。

「こんな話、退屈じゃないか?」

「全然! 知らないことばかりだから、すっごく面白いよ」

「そうか……」

 いろいろ話しているうちに、釜飯がやってきた

「うわー、おいしそー」

 蓋をあけると、湯気がもわっと立ち上がった。
 
「いただこうか」

「うん、じゃあ、いただきます」

 お味噌汁をいただいてから、釜飯をお茶碗によそった。
 それをお箸で口に運ぶ。

「うわー、美味しい。お米が炊きたてだから、美味しいのかな」

「ああ、米から炊くからな。だから注文してから、時間がかかるんだ」

 私のは鶏五目だったが、鶏とたけのこの香りが口いっぱいに広がって、なんとも幸せな気分になった。

「茶碗、貸して」

 1杯目を食べ終えた私のお茶碗に、彼が自分の海鮮釜飯を入れてくれた。
 私も同じように、彼のお茶碗に鶏五目を入れる。

「うわー、こっちも美味しい。貝とエビの風味かな? ごはんに味が染みてて美味しいよ」

「うん、美味いな」

 小鉢も茶碗蒸しも、美味しかった。
 同じファミレスでも、私がバイトしているようなところとはまた違う。
 メニューを見ても、値段がそれなりに高い。
 最後にデザートの小さな抹茶ケーキを食べながら、私は聞いた。

「また今更なんだけどさ……今日もご馳走になっちゃっていいの?」

「いいって。支払いは食事券だし、視察も兼ねてる」

「でも……なんか悪いよ」

「気にするな」

「ひょっとしてさ……私に気を使わせないために、こういうところ選んでくれてるの? 食事券で支払いができるようなとこ」

「考えすぎだ。期限切れでゴミになる前に、消費したいだけだ」

「そう……ならいいけど」

「それなら、今度普通のレストランとか行くか? 割り勘で。俺はいいけど」

「えっ? う、うん……いいけど」

 私は言いよどむ。
 別にいいんだけど……。
 それって、なんか……普通のデートみたいじゃない。

「それか、今度また何か……」

「?」

「また何か作ってくれ。それでチャラにならないか?」

「えっ? そんなんでいいなら、作るけど……」

「そうか。じゃあ頼む」

「……また『普通』とか言わない?」 

「……善処する」

「善処なんだ。まあいいけど……」

 焼き菓子ぐらいだったら、時間もかからないし。

「あのアップルパイな、その……」

「?」

「その……嬉しかったんだよ。人に食べたいものをリクエストして、作ってもらったのって初めてだったからな」
 彼はそう言って、バツが悪そうに下を向いた。
  
 私は胸の奥で、何かが小さく圧縮されたような気分になった。