「やっぱり他の映画にするべきだったか」

 ローファーム・イン・アメリカ
 めちゃめちゃ退屈な映画だ。
 法律用語が出まくって、字幕を呼んでも意味がわからん。
 よくこんな映画作ったな。

 横で月島が、目を閉じて微動だにしない。
 そういえばラウンジで、結構緊張してたからな。

「面白いやつ」

 ロビーで初めて月島の私服姿を見た。
 チェックのワンピース。
 短めのスカートから、綺麗な足を見せていた。
 清純な月島に、よく似合っていた。

 可愛いと思ったが、俺も恥ずかしくて言葉にできなかった。
 あんなに月島が緊張するんだったら、ちゃんと言ってやればよかった。
 こいつはもっと、自分に自信を持っていい。

「ん……」

 月島が寝返りをうって、こちらを向いた。
 完全な熟睡モードだ。
 長い睫毛で、童顔の表情。
 寝ていれば、こんなにおとなしい。
 なんだかそれが可笑しかった。

 足元を見ると、スカートが少しめくり上がっている。
 下着が見えそうだ。

「ったく……無防備だな」

 俺はドリンクテーブルに置いてあったブランケットを広げ、彼女の膝下にかけてやった。
 彼女の幸せそうな寝顔を見ていたら、俺まで眠たくなってきた。
 こりゃ2人で昼寝タイムだな。

        ◆◆◆

「起きろ。終わったぞ」

「……へっ?」

 私は一瞬、ここはどこだかわからなかった。
 目の前にイケメンがいる。
 低く優しい声で、私に……。
 
 寝心地のいいベットで、ずっと寝ていたような感覚。
 映画館で寝てしまったと気づくまで、5秒ほど要した。

「ご、ごめん」

「問題ない。俺も寝てたから」
 
「あー、やっぱり寝ちゃったか。しかもかなり初期段階から」

 私は少し寝ぼけた目で足元を見ると、ブランケットが掛けられていた。

「あれ? ブランケット掛けてくれたの?」

「ああ。寝相悪くてパンツ見えてたからな」

「え、ウソ!?」

「ウソだ。うわっ」

 私はブランケットを思いっきり投げつけた。
 自分でも顔が赤くなっているのがわかる。

「そういうところが暴力的だって言ってるんだ」

「そんなこと言って。本当は私のスカート、下から覗いてたんじゃないの?」

「ば、馬鹿言うな。俺はクマのキャラクターとか書いてあるパンツに興味はないぞ」

「そんなお子様のヤツ、履いてないわよ!」

 何かを投げつけたかったが、手元にはもう何もなかった。

「それにしても熟睡だったな。どこまで覚えてる?」

 私は必死に思い出す。
 確かに記憶が断片的だった。

「んー、最初に会議のシーンやってたでしょ? そのあと男女で口論してたよね」

「そのあとの事故のシーンは?」

「え、何? そんなのあったっけ」

「そこからかよ」

 どうやら想像以上に初期段階からだったみたいだ。
 なんだか少しだけ、申し訳ない気持ちになった。
 でも眠たくなるような映画の内容にも、問題があるよね?
 私は小さく伸びをする。

「なんだかこんなにいいシートだったのに……もったいなかったな」

「それは仕方ない。俺の映画のミスチョイスだ」

 二人ゆっくり立ち上がって、出口へ向かう。
 映画館を出て1階へ向かい、ビルを出た。

「和食ファミレスは、ここから歩いてすぐだ。お腹すいてるか?」

「うん。よく寝たら、お腹すいたかも」

「普通はよく運動したら、だけどな」

 そんな軽口をたたきながら、彼は歩くスピードを小柄な私に合わせてくれている。
 ちゃんとデート慣れしてるなぁと、変に関心してしまう。