「なんか私、場違いじゃない?」

「全然そんなことないぞ」

「もうちょっと、かわいい格好してくればよかったかも。服とか持ってないけど……」

 私は雰囲気に蹴落とされ、かなり凹んでいた。

「どうした? 月島らしくないぞ」

「そんなこと言ったって……」

「いつもの強くてガサツで暴力的な月島は、どこにいったんだ?」

「だ、誰がガサツで暴力的なのよ!」

 彼はフッと、口元を緩めた。

「それでいいんだ。月島には月島の良さがある。もっと自信を持てよ」

「……」

 我ながら単純だ。
 宝生君が、励ましてくれた。
 たったそれだけのことで、私は元気になれた。

「ありがと」

「それにその格好だって、悪くないぞ。清楚な月島に、似合ってる」

「えっ……」

「あとは体の凹凸をつけるだけだ」

「台無しだよ!」

 冗談冗談と言ってくる彼の腕を、ポカポカ叩いてやった。
 私の機嫌は、すっかりよくなっていた。
 やっぱり私は、単純らしい。

「そういえば、映画のあと食事に行きたいんだが、一緒に来れるか?」

「うん、いいけど……ちゃんとワリカンにしてよ」

「いや、そうじゃない。ワンパターンだが、もらった食事券がある。そこは宝生グループの店でな。ちょっと視察も兼ねて行ってみたいんだよ」

「いやでも……」

「和食のファミレスで高級なところじゃないぞ。それに食事券を消費するだけだから、俺の財布からお金が出ていくわけじゃない。気にすることはない」

「ほんとに? じゃあ、お言葉に甘えていい?」

「もちろんだ。じゃあ予約しておく」

 そういうと、スマホでメッセージを打ち始めた。
 緑色の画面がチラッと見えたから、Limeだろう。
 誰かに予約してもらうのかな。

 しばらくすると、ラウンジ内にアナウンスが流れた。
 ローファーム・イン・アメリカが、もうすぐ始まるらしい。
 飲み物のグラスを持って、そのままラウンジを出た。
 そのまま席まで、持って行ってもいいようだ。

 グランドクラスは2階席の最前列にあった。

「なに、この椅子……」

 私は驚いて、固まってしまった。
 そこには一人がけの、巨大な革張りソファーがあった。
 私ぐらいの体型だったら、横に2人座れそうな広さだ。

 私と宝生君は、その席に横並びで座った。
 二人の間には、十分の距離がある。

「横のボタンでシートを倒せるからな。あとフットレストも」

 言われてシート横のボタンを押すと、フットレストもリクライニングも調整できた。

「これ、絶対寝るやつじゃないの?」

「はは、違いないな」

 なんて快適な空間なんだ。
 しかもスクリーンが真正面。
 お金のある人達は、こんな贅沢ができるんだ。

「宝生君、いつもこんなシートで映画見てるの?」

「いや、そんなことはない。ていうか、そもそもあまり映画館には来ないぞ」

「そうなの?」

「ああ。大概自宅のシアタールームで見るんだ。映画って封切りが終わるとDVDが発売されるよな? そのテストバージョンのDVDを発売前に回してもらうことが多いんだよ。まあちょっと大きな声では言えないんだけどな」

 うわー、それ更にチートなヤツじゃん。

「自宅のシアタールームって広いの?」

「そうでもないぞ」

「スクリーンってさ、どれぐらいの大きさ?」

「知らん。多分3メートルぐらいじゃないか?」

 うわー、めちゃめちゃデカイじゃん。
 うちのアパートの部屋全部あわせたより、そのシアタールームのほうが絶対広いと思う。

「食べ物ないけど、いいか?」

「いいよ、いらない。お昼食べてきたし」

「そうか。まあこの後夕食だしな」

 そんな話をしていると、場内が暗くなった。
 予告編が終わって、本編が始まる。
 
 法律事務所内の会議から始まる。
 予想通りだ。眠くなってきた。
 昨日あまり寝られなかったから、無理もない。
 
 映画も法律用語が多くて、あまり頭に入ってこない。
 開始から15分ぐらいか。
 それ以降の記憶が全くなくなった。