手術室の前、私と智さんは、静かに終わるの待っていた。
すると、智さんが口を開いた。

『あのね、彰、毎日、麻里亜ちゃんの話してたんだ。ご飯食べなきゃって言われるとか完食したら、褒めてくれるから嬉しくて、笑顔見たくて、頑張って食べるんだって話してた。』

彰、そんなこと話してたんだ。知らなかった。

『彰、彼女なんていらないって話してた。告白されたことあったけど、断ってた。麻里亜ちゃんで3人目だったよ。』

彰、断ったんだ。なんで私は、OKしたんだろうと聞こうとしたら、智さんが教えてくれた。

『麻里亜ちゃんの暖かい気持ちが嬉しくて、告白OKしたんだと思う。自分の病気と真剣に向き合おうとする覚悟、麻里亜ちゃんにあったのがわかってたんだよ。だから、僕は、嬉しいよ。弟の笑顔がたくさん見られるようになって。
彰を精いっぱい幸せにしてあげてね。僕は、麻里亜ちゃんのこと信じてるよ。彰を最期まで笑顔いっぱいの人生にしてくれるってことを。』
智さんは、真剣なまなざしで私に言った。私も真剣になって「はい」と答えた。

2時間半後、手術室のランプが消えた。終わったんだ。
麻理亜も智も緊張した。成功したのか、医師が出てきて説明受けるまで心臓がバクバクした。

『柚木彰さんのご家族ですか?』

『はい』

『今回、彰さんの肺に転移したがんは、すべて取り除きました。成功です。まだ麻酔がきいてるので
目が覚めるのは、あと30分後くらいでしょう。』

『ありがとうございました。』

智さんと私は、しっかり頭を下げた。智さんのお辞儀、すごくきれいだなぁ。
さすが、弁護士。
と麻里亜は、ひそかに思ったのだった。

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彰の病室

まだ彰は、目を覚まさまない。右手には、私が作った青いお守りが握られてた。
私もお揃いの桃色のお守りを握ってた。彰の手術が成功するようにと。
医師からの『成功です。』という言葉聞くまでは、正直、安心なんてできなかった。
もしも、失敗したら?ダメだったらと思ったら私は、たぶん、生きていけないだろう。
ここまで人を好きになれたのは、彰で初めてだから。

『僕、水とコーヒーを買ってくるけど、麻里亜ちゃんは、何を飲む?』

『私、ミルクティーで。お代渡します!』

『いいよ。奢るよ。彰の手術、見守ってくれたお礼だから』

そう言い残して智さんは、自販機まで行った。病室に残ったのは、私とまだ眠ったままの彰だ。

『本当に性格もちょっと似てるなぁ。』

ボソッとつぶやいた。飲み物奢るときの理由も彰と似てて、麻里亜は、兄弟っていいなと
思ったのだ。

彰の寝顔を見つめる。綺麗だなぁ。かわいいなぁ。と思い麻里亜は、お守りを握ってない左手を握った。
まだ酸素マスクをしてるが、呼吸は、すごく穏やかだ。
起きたら、『頑張ったね。』と声をかけてあげたい。

その時、『うぅん』とうなる声がした。
彰が目を覚ましたのだ。

『彰?彰、わかる?私だよ。』
『麻里・・・亜?そばにいてくれたの?』

まだ寝ぼけたような声だ。
麻里亜は、それすらかわいいと思ってしまった。

『よく頑張ったね。私、ずっとお守り握ってたよ。』
『僕もだよ。お守り握ってると麻里亜が側で手を握ってくれてる気がしたから、頑張れた。』

麻里亜は、泣いた。彰が生きててくれさえ、それだけでいいんだ。
彰と特別、どこか遠くにデート行ったり、彰から特別高いプレゼントなんかいらない。
彰さえ、柚木彰という存在さえ私の隣にいてくれれば、それだけでいい。

この気持ちに嘘なんかない。
麻里亜は、そう思いを超えて手を強く握った。

『どうしたの?泣いてるけど、何かあった?』
『嬉しいの。嬉しくて泣いてるんだよ。彰、生きててくれてありがとう。私は、彰が
生きててくれたらそれでいいんだよ。』
『僕もだよ。僕も麻里亜がいてくれたら何も望まないよ。』

しばらく二人で静かに泣いた。お互い生きててくれてありがとう。
そう思って泣いた。

『二人ともどうしたの?彰、麻酔きれて、痛む?』

智さんが帰ってきた。右には、コーヒー、左手には、水とミルクティーが握られてた。

『いやぁ~僕の好きなメーカーのコーヒーが売り切れてて、隣の病棟まで行ったよ。』
そんなところまで行ったの?と思わず麻里亜は、ツッコミたくなった。

『兄貴、ありがとう、おいてて。また後で飲むからさ。』
『はい。麻里亜ちゃん。』
『あ、ありがとうございます。』

私は、智さんからもらったミルクティーを飲んだ。
このミルクティーは、私が入院中、彰から『いつも話し相手になってくれてありがとう』という気持ちこめてくれた
思い出の味だ。
スッキリした甘さで、甘いのが苦手な私は、お気に入りだ。

あの後、コンビニや自販機でこのミルクティー探したが、なかった。
この病院にしかないのが残念だ。

『彰、また仕事が落ち着いたら会いにくるね』

『うん。待ってるよ。』

気づけばもう夕方17時近い。今日は、コンビニで適当に弁当買って食べよう。
『じゃあ、僕も帰るね。彰、ゆっくり休むんだよ。』
『ありがとう。兄貴、麻里亜』

彰は、優しく微笑み、私と智さんは、病室を後にしたのだった。

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~柚木智Side~

僕は、麻里亜ちゃんと彰の二人きりにしてあげた。
なぜなら二人にならないと話せない、お互いの気持ちだってあるでしょ。
僕がいたら、はっきり言って邪魔だ。

自販機でコーヒー、水、ミルクティーを買いに行くということにして
二人きりにしてあげた。

『あれ?ここの自販機、僕の好きなグロリアのブラックがない。仕方ない。
彰の水と麻里亜ちゃんのミルクティーを先に買って、僕は、隣の病棟まで行くか。』

彰の病室へ戻ると麻里亜ちゃんと彰のすすり泣く声が聞こえた。
ちょっと会話の内容、聞いちゃったけど、ここは、あえて知らないフリしてあげるか。

『どうしたの?彰、麻酔きれて、痛む?』

彰と麻里亜ちゃんの目が少し赤かったけど、悪い意味で泣いてたわけじゃない。
僕は、そうだと信じてる。

『いや~僕の好きなメーカーのコーヒーが売り切れてて、隣の病棟まで行ったよ。』

麻里亜ちゃん、驚いた顔してたけど、これは、嘘じゃないよ。

少し、話をした後、僕と麻里亜ちゃんは、病室を後にした。

~柚木智Side終了~

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病院からの帰宅後、私は、セブンマートで買った幕の内弁当とお茶を買って
家で食べていた。
彰、大丈夫かな?夕飯、少しでも食べてくれたらいいな。

いや、手術後だからきっと疲れて食べれないだろうな。
メッセージも電話もできないだろう。
私は、なんだか食欲なかったので残ったおかずは、明日のお弁当にして詰めようと思って
冷蔵庫へ閉まった。

お風呂から上がるとスマホにメッセージがきていた。
彰かなと思ったら『智』の文字が。

そういえば彰の手術中、連絡先交換したんだった。
智さんは、『もしもまたストーカーのことで困ったら、僕に連絡してね!』って言ってたけど、あなたは、不倫や離婚専門の弁護士だろうとツッコんだの思い出した。
話を聞けば、意外にも智さんは、不倫慰謝料や離婚以外にもお金のトラブルにも強いらしい。
過去に借金の問題を解決した実績あるとか。

メッセージを開くと【彰の手術、付き添ってくれてありがとう。】という文字があった。
私は、【いいえ。こちらこそありがとうございました。】と返して、ベッドに入ったのだった。