彰が集中治療室に入ってから3週間が経過した。
私は、志保さんから連絡来るまでの間、ななみとたまきちゃんとほまれちゃんと公園に行って遊んだり、
ショッピングモールでおいしいもの食べたりして気分転換した。
それでも私の心の中は、曇ったままだ。

”もしも、その間に彰が死んだら?””会えないまま、二度と帰らぬ人になってしまったら?”

そんな考えがぐるぐると廻った。

「麻里亜?大丈夫?」
ななみに声をかけられて、ハッとした。
「なんか、元気がないけど、大丈夫?最近、上の空じゃない」
そっか、私は、気づいたらボーっとしてることが多い。
「大丈夫。彰のことでちょっと、心配で。でも、大丈夫。」
作り笑い、うまくできてるかわからないが何とか笑って見せた。

「嘘。麻里亜。その笑顔、ぜんぜん大丈夫じゃないよ。」
ななみに図星を衝かれた。
「麻里亜って大学時代から、自分の悩みは、抱え込んで大丈夫?って聞いても
大丈夫って嘘つく癖あるよ。私って、そんなに頼りない?麻里亜は、いつも私とたまきとほまれを助けてくれる。
私だって麻里亜の役に立ちたい!助けたいって思うよ!」
「ごめん。ごめんね。本当は、平気じゃない。彰がなかなか集中治療室から戻ってこれないから、その間に死んだらとか
二度と会えなくなったらって思ったら、怖いの。」

ショッピングモールの公共の場だけど、私は、気づいたら泣いてた。
大粒の涙を流す私を見て、周りの人は、「なんだろう?」「どうしたんだろう?」という視線を向けるが
ななみは、気にしないまま、言葉をつづけた。

「大丈夫。大丈夫だよ。麻里亜。彰さん、絶対にまた元気に戻ってきてくれるよ。麻里亜は、私とたまき、ほまれを
こうやって救ってくれたじゃない。おかげでもうすぐ離婚成立できそうなの。
私とほまれ、たまきを匿ってくれてありがとう。麻里亜、思い切り好きなだけ泣いていいよ。」

キッズプレイから私が泣いてるのを見たのか?たまきとほまれも心配してきた。

「だいじょうぶ?まりあおねえちゃん?」
「ほまれ、へんなかおがとくいだよ。わらって!」
二人は、自分なりに考えて、麻里亜を笑わせてくれる。
なんて優しい子たちなんだろう。と麻里亜は、優しい気持ちになって、「ありがとう」と笑った。

「わらってくれたー!」「やったー!」
と二人は、手を取り合って、らんらんと喜んだ。

私は、友人にたくさん恵まれてる。麻里亜は、恵まれた環境に感謝して
「ななみ、たまきちゃん、ほまれちゃん、ありがとう。おかげさまで元気になったよ。」
「じゃあ、今夜は、ファミレスでご飯食べて帰らない?」
双子は「やったー!」と喜んで、「おこさまらんちとどりんばー、いい?」とななみにおねだりしてた。

ななみ、たまきちゃん、ほまれちゃんは、もうすぐ麻里亜の自宅を出る。

ーーーーーーーーーー

「麻里亜ちゃん。志保だけど、彰が集中治療室から戻ってきたよ。今から一緒に面会に行きましょう。」
彰の叔母・志保さんから連絡が来た。
彰がなんと、普通病棟へ戻ってきたのだ。嬉しくて、嬉しくて、ななみに「病院へ行って、彰に会ってくる」と
告げて、ななみとたまきちゃん、ほまれちゃんから「いってらっしゃい」と言われて、自宅を出た。

マンションの下におりると、志保さんが車で待ってた。

「麻里亜ちゃん。乗って」
「ありがとうございます!」

麻里亜は、志保の車に乗り込んで、さっそく病院へ向かった。
走行中、麻里亜は、彰に作った手作りの色違いのお守りを握った。
「(どうか、元気な姿で会えますように。)」

麻里亜は、ひたすら祈った。志保は、その間に「大丈夫よ」と優しく声をかけてくれた。

病院につくと、受付をして、彰がいる病室へ通してくれた。
1分1秒、早く会いたい。自然と足は、早歩きになった。
病室についた。「柚木彰」と書かれた名前を見て、深呼吸。

「失礼します!」
と言って、周りを見ると、彰が「久しぶり」とか細い声で迎えてくれた。

麻里亜は、自然と涙があふれた。よかった。よかった。生きてる。

「彰君、私、ちょっと先生とお話してくるね。麻里亜ちゃん、彰君をお願いね。」
志保さんは、先生から大事な話があると言って、病室を出た。
二人きりになった時、彰は

「ごめんね。ずっと連絡できなくて。病状が悪化して、ずっと集中治療室にいたんだ。」
「ううん。志保さんから聞いたから大丈夫。私、ずっと心配してた。その間に彰が死んだらどうしようとか
会えなくなったらどうしようって考えが巡ってた。」

麻里亜は、彰の手を握った。ほんの少し冷たかった。
彰の病状の深刻さがうかがえる。

「麻里亜に会わないで黙って死なないよ。今は、1日1日生きることを考えよう。
ずっとお守り握ってたよ。これを持ってると麻里亜がいつも近くにいるって感じてた。
僕も麻里亜が心配だった。泣いてないかな?とか寂しがってないかな?とかずっとずっと
会いたくてたまらなかったよ。」

彰の頬に雫が流れた。泣いてる。あのいつも朗らかな笑顔が印象的な彰が。

「ごめんね。心配させたね。もう心配させない。泣かせたりしないから」
「いいよ!彰!もういいから!彰は、余命宣告されてるんだから、私を泣かせたり、心配させたりしないって
無理な約束しなくていいよ!」
「そんなつもりないよ。ごめんね。麻里亜の気持ち、十分わかってるから。」

彰は、ベッドでうつぶせて泣いてる麻里亜の頭を優しくなでた。

「また、元気になったら麻里亜とうどん、食べに行きたいな。」
「うん。行こうね。」

麻里亜と彰は、指切りのように優しく口づけた。
お互い、まだ不慣れではあるが、1分1秒、お互いの体温感じるように口づけたのだった。

「麻里亜ちゃん、彰君、ごめんね。先生のお話終わったわよ。彰君、先生から治療は、これからまだ
続くって言ってた。結果も変わらなかったけど、頑張りましょうって」
「わかった。ありがとう。おばさん」
「あら?二人とも喧嘩した?泣いてるけど?」
「大丈夫です。喧嘩なんてしてませんから。」

麻里亜と彰は、心配させないと笑って見せた。
志保は「そう?」と不思議そうにうなずいた。

お互いに心配させない性格は、似てるかもしれないと心の中で笑った麻里亜だった。

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病院から帰宅後、「ただいまー」というと、ななみと双子姉妹が出迎えてくれた。
台所からおいしそうなカレーの匂いがした。
「お帰りなさい。彰さんと話できた?今日は、カレーとサラダ、デザートに杏仁豆腐作ったの。」
「ありがとう。おいしそう。」

双子が「はやく!はやく!」とせかす。双子は、私が帰ってくるまで夕飯を食べずに待っててくれたらしい。
「頭っと待ってるって言うから、私もまだ食べてないの。ごはんは、みんなでたべるんだって二人が
言うから。」
母の顔で笑うななみが微笑ましくて、麻里亜も「そうだね。じゃあ、食べようか」
という。

彰の余命は、あと1年。その間に死ぬこともあると志保さんから車の中で言われた。
カレーを食べながら、私が彰にしてあげられることを考えた。
あの「満腹製麺」にも行きたいし、二人きりで純喫茶「キンモクセイ」にも行きたい。
でも1番は、彰と過ごせるなら、何も望まない。
もう少しいいアイディアを考えよう。

麻里亜は、カレーを食べ終え、食器を二人で片づけて、お風呂に入って、眠りについた。