学校に到着した丈太と月子は、校内を浮遊する霊の数と、禍々しい空気に負けそうになる。

 月子は昨夜ソフィアから受け取った十字架を首からかけ、手には聖水の入ったスプレーボトル、ポケットにも予備の聖水を持って今日に臨んだ。

 丈太は月子に集まる霊に祓いながら、その量の多さに彼にしては珍しく危機感を覚えていた。

 どんな時でも楽観主義だったはずなのになーー丈太は思わず苦笑し、これがアザエルの怖さなのだと知る。

 前を歩く月子が急に立ち止まったため、丈太は月子の肩に手をかけたが、突如その手を振り払われてしまう。

「おい、月子。どうかしたか?」
『私に触らないで! 男なんて……みんな浮気者なのよ~!』

 その瞬間、丈太のチョップが月子の頭に落ちた。

「……男に浮気されて自殺した霊だな」
「も〜! 冷静に分析するな! 首が折れるかと思ったわよ!」

 しかし丈太が油断した隙に、すぐに月子に何かが入り込む。月子は頭を抱えて項垂(うなだ)れる。

『……知らなかったんだよ……あれが闇金ってやつなんだな……。ちょっとパチンコしたかっただけなんだよ……当たれば一攫千金……うっ!』

 丈太は冷静にアイアンクローをかける。

「ギャンブルじゃなくて働け! エルボーでもかましてやりたいが、体は月子だからアイアンクローで我慢してやる」
「だからっ! アイアンクローはやめろって、アーロン神父にも言われたよね⁈」

 月子は怒鳴るが、除霊されるたびに何かが体に入り込む事態に、心も体も疲労困憊していく。

「月子! お前ももう少し警戒しろ! 俺一人じゃ手に負え……」
『……ニャー』

 急に床に転がる月子を見て、丈太の思考が停止する。

 ……おいおいおいおい、やばいぞ、なんだこのかわいい猫は。このまま俺の部屋に連れて帰ってもいいな……。そうしたらあんなことやこんなことーーそんなことを考えていた丈太の頭に、通りかかったアーロンが聖水を大量にかけた。

「冷てっ! なにすんだよ!」
「あぁ、すみません。何やら煩悩にまみれていたようなので。ちゃんと除霊を続けなさい」
「ってか、こんなの俺一人じゃ手に負えないんだけど!」
「でもやるしかないでしょう。自分で考えなさい。とは言え、確かにここまでとは思いませんでした。私はこれから霊たちを引きつけている原因を探します。それを祓えば今よりは良くなるはずです。少しの間頑張ってください」
「マジかよ……。なるべく早くしてくれよ!」

 走り去るアーロンを見送り、丈太は月子の頭に触れる。すると霊が消え、床に転がっていた月子は慌てて起き上がる。

「聞いてただろ? アーロン神父がどうにかしてくれるまでは俺らで堪えるしかないんだ。だから月子ももう少し警戒してくれ」
「う、うん……ごめん」

 丈太の真剣な表情に、月子も気を引き締めるように頷いた。