丈太と月子が帰宅してからおよそ一時間後、アーロンが新藤家に到着した。

 先に帰った二人が、今に集まった家族に先ほどまでの図書館での経緯を大まかに説明をしていたため、アーロンはその後の様子を話した。

「二人が帰った後、学校内に異常がないか確認して歩いた所、一か所だけ明らかにに変わっているものを見つけました。校舎の屋上の十字架が、まるで落雷でもあったかのように燃えてなくなっていたんです。これは何かの合図なのではと考えます」
「合図? 一体誰に対しての合図なの……?」

 ソフィアの言葉を聞いて、アーロンはカバンの中から使い込まれた一冊のノートを取り出し、テーブルの上に置いた。

「これは?」

 権臣はノートを手に取ると、ペラペラとめくり始めた。そこにはこの町で起きた殺人事件の新聞やネットの記事が、所狭しと貼ってある。よく見れば日付は月子がこの家にやって来てから起きたもので、世間ではそれぞれの犯人が前の事件を模倣犯したのではないかと特集まで組まれていた。

「実はこの家に月子がやってきた日から一ヶ月の間に、この町では不可解な殺人事件が起きているんです」
「あぁ、覚えてる。事件なんてほとんど起きないこの土地で殺人なんて、うちは子供がいるから怖かったよ」
「えぇ、だからしばらく送り迎えをしたもの」
「何故模倣犯と言われたかーーいずれも犯人はつかまっているものの、被害者の心臓だけが見つかっていない。そしてもう一つ、犯人が全員独房の中で変死体で見つかっているんです」
「確かに……共通点があるのね」
「私はこれが全てが、あの日月子が暴走してしまったことに関係していると考えます」

 そしてノートを手に取りあるページを開くと、再びテーブルに置く。そこには十二年前に聖ミカエル学園で起きた殺人事件の新聞記事が貼られていた。

「被害者は笠原沙綾、高等部三年生。生徒会の会計。帰り道で国語教師だった谷垣に殺害されました。谷垣の方が一方的に好意を寄せていたようですが、拒絶されたための犯行だったようです。彼女は翌日に礼拝堂の中で発見されましたが、心臓だけは未だに不明だそうです」

 アーロンはノートをめくる。するとそこには一人の女子高生の写真が現れる。長い髪をハーフアップにまとめ、少し大人びた表情が印象的だった。そして何よりその女子高生はセーラー服を着ていたのだ。

「この子って……」

 写真を見た月子は思わず息を飲む。あのモヤの中から現れた少女に姿形が瓜二つだった。

「聖ミカエル学園の制服が変わったのが十年前です。そのことも踏まえて、この少女が先ほどの霊である可能性が高いーー」

 アーロンの話を聞いて、それぞれが何かを考えるかのように口を閉ざした。