ごめんね……。月子(つきこ)を守るって誓ったのにな……。ママ、もうダメみたい……。

 陽子は薄れる意識の中で、愛してやまない娘のことを考えていた。

「おいっ、しっかりしろ! まだ生きてる! 救急車はまだか!」

 陽子(ようこ)の周りは騒然としていた。鼻を衝くガソリンの匂い。前方部分が電柱にぶつかり大破した車、地面に流れる大量の血だまり。凄惨な現場には人々の叫び声とサイレンの音が響き渡る。

 陽子の目からは一雫の涙がこぼれ落ちた。

 大好きだよ、月子……。あなたと生きたかった……。

 その願いもむなしく、ゆっくりと意識が遠のいていく。

 しかし彼女の体を優しい空気が包み始めたのだ。

『陽子……大丈夫……月子を一人にはしないよ……。彼女には僕たちがついているから……』

 誰の声かしらーーそれはどこか懐かしく感じ、陽子に力を与えてくれる。

「犯人が逃げたぞ! 誰か追いかけろ!」

 あたりは騒然としているのに、陽子の周りだけは穏やかな空気が流れていた。

『諦めないで……さぁ、月子のところへ行こう……』

 その声が聞こえた瞬間、眩い光が差し込み、陽子は完全に意識を失った。