月子が家にやって来てから十二年の月日が流れた。しかしその間も月子の憑依体質が治ることはなく、未だに気付くと何かが取り憑いていたりする。

 そのたびに丈太は月子に憑いたものを日常的に払ってきたのだが、中学生になった頃からやけに月子がモテ始め、そばにいる丈太は平静を装いながらもソワソワしてしまうのだった。

 月子を守るのが丈太の役割だし、近くにいるのは当たり前のことなのに、みんなが可愛いと言うから意識するようになってしまう。

 とはいえ二人の関係については周知の事実なわけで、今のところは憑かれる月子を祓う丈太という特殊な関係が受け入れられている。

 そう、俺と月子は言わば夫婦みたいなもので、割って入ろうとする奴がいるとすれば、霊か悪魔くらいのものなのだ。

 この日もいつもと同じ日常だった。迫り来る睡魔と戦いながら、食後に英語の授業なんて寝ろって言ってるようなもんだろーーと心の中で小言を繰り返す。

 丈太は催眠術のように流れる英文を聞きながら、眠りの世界に誘われていく。しかしあと一歩という所で、先生に頭を教科書でポンっと叩かれる。

「って~な~! なんだよ!」
「なんだじゃない。授業中に寝るんじゃないよ。というか、あいつを何とかしてくれ」

 先生が教室の後方を指差したので面倒くさそうに振り返ってみると、月子が床に転がって丸まりながら、気持ち良さそうに寝ている。

「ああ、また憑依されてますね。しかも俺より気持ち良さそうに寝てやがる……」
「いやいや、問題はそこじゃないから。早いとこ除霊しちゃってくれる?」

 丈太は重い腰を上げると、月子の近くにしゃがみ込む。