保育園で吉野くんと会った次の日。
学校に行き校門をくぐると、少し前を吉野くんが歩いてる。
そしてその横には、一人の女の子がいた。
「あれって、草野さん?」
草野さんは私と同じクラスで、学年屈指の美少女。
そんな彼女が吉野くんと並んで歩くと、とっても映える。って言いたいところだけど、そんな雰囲気じゃ無さそう。
草野さんは、あれこれ吉野くんに話しかけるけど、吉野くんは興味なさげって感じ。
そういえば草野さん、吉野くんに告白してフラれたって、紫が言ってたっけ。
やがて、草野さんは大きく声をあげた。
「ひどい! だったらもういいよ!」
そうしてクルリと後ろを向き、逃げるように駆け出していく。
私のすぐ横を通っていったけど、その時の草野さん、怒りと悲しみが混ざったような、なんとも言えない表情をしていた。
吉野くんも振り返ってそれを見送ったけど、その時、私と目が合った。
「よう」
「あっ。お、おはよう」
「昨日は、日向の写真ありがとな」
「う、うん……」
吉野くんは普通に挨拶してくるけど、私も普通にしてていいのかな?
あんなの見た後じゃ気まずいよ。
「えっと……今の、 何かあったの?」
「少し前に、色々あったんだよ」
「色々って、えっと……告白とか?」
「知ってたのか。まあ、そういうこと」
噂、本当だったんだ。
疑ってたわけじゃないけど、こうして直接本人の口から聞くと、噂で聞くよりずっと重く感じる。
「断ったけど、ならせめて、今日の放課後遊びに行こうって言われた。それも断ったけどな」
「それって日向ちゃんのお迎えがあるから?」
「ああ。理由までは言ってないけどな」
草野さんはそれが不満で、あんな顔してたんだ。
「けど迎えを抜きにしても、答えは変わらなかったろうな。付き合うとか興味無いし、アイツのことよく知らないから」
学年屈指の美少女をバッサリ。さすが氷の王子様って言われるだけのことはあるよ。
「女の子と付き合うの、興味ないんだ」
「そんなことしてる暇があったら、日向と一緒にいられる時間を作る」
昨日、私が思った通りのことを言い出した。
草野さん、そんな理由でフラれたなんて思わないだろうね。
「本当に、日向ちゃんのこと大好きなんだね」
「ああ。大事な妹だからな」
これじゃ、吉野くんに本気で恋してる子たちは大変そう。
けど私は、日向ちゃんを大事にする吉野くんのこと、氷の王子様って呼ばれてるクールな姿よりも好きかも。
そのまま私たちは、なんとなく並んで歩く。
そうして、下駄箱まで来た時だった。
「よう、星。お前が女子と一緒なんて珍しいな」
一人の男子が、吉野くんにそんなことを言ってきた。
その子は、隣のクラスの大森俊介くん。吉野くんの友達で、すっごくフランクに話せる数少ない人だ。
「俺が誰と一緒にいようと勝手だろ」
「そうだけどさ、お前、言い寄ってくる女子がいても、いつも近寄んなって感じじゃないか」
その言い方だと吉野くんがすっごく冷たい人みたいに聞こえるけど、たった今草野さんの誘いをキッパリ断ってたから、否定できないかも。
「えっと……君は確か、坂部さんだっけ」
「そうだけど、どうして知ってるの?」
「同じ学年だし、顔と名前くらいだいたいわかるでしょ」
「えっ、でも……」
私は、他のクラスだと名前知らない人もけっこういるよ。吉野くんなんて、同じクラスなのに昨日まで私の名前知らなかったんだけど。
「……悪かったな」
「あ、いや、別に……」
この話題、引き伸ばすと気まずくなりそうだし、これ以上何も言わないでおこう。
「で、なんで二人が一緒にいるんだ?」
「そこで会っただけだ。昨日、学校が終わった後にたまたま会ったから、その時の話をしてたんだ」
「昨日? けどお前、学校が終わったらすぐに日向ちゃんを迎えに行ってるじゃないか?」
「こいつの甥っ子も日向と同じ保育園通ってて、迎えに来てたんだよ」
「えっ?」
そこまで話すと、森田くんは驚いたように目を見開き、それから私にコソッと囁いた。
「じゃあもしかして、星と日向ちゃんが一緒のところ見た?」
「ええ、まあ……」
「すごくなかった?」
「それは……」
すごいというか、ビックリしたかな。
けどそう言っちゃうと、吉野くん怒るかも。
大森くんも、どうしてそんな言い方するかな。そういえば吉野くん、大森くんにシスコンってからかわれたことがあるって言ってたっけ。
「わ、私だって甥っ子のこと大好きだから、吉野くんが日向ちゃんを可愛がる気持ち、わかるよ。日向ちゃんすっごく可愛いし、あんな妹がいたら私も夢中になっちゃうよ!」
日向ちゃんが大好きだっていい。って言うか、あんなに可愛いんだから大好きになって当然。
そう伝えたくて、叫ぶように言う。
「そ、そうか。そこまで勢いよく言われるとは思わなかったから、驚いたな」
「えっ。そう?」
もしかして、引かれた?
そう思ったけど、大森くんはニコッと笑ったかと思うと、吉野くんの背中をバシバシと叩き出した。
「やったな! お前の日向ちゃん愛、わかってくれる子いたぞ。言っただろ。お前、普段無愛想なんだから、そういう人間らしいところを見せていけって」
「余計なお世話だ。だいたい、お前がシスコンシスコン言うから、人前では言いたくなくなったんだよ」
「だから、お前のシスコンはチャームポイントなんだって。氷の王子にそんな一面があるって知ったら、ますます女子人気上がるぞ」
「なら、なおさら言わなくていい。興味ない奴に言いよられても迷惑なだけだ」
大森くん、吉野くんのことシスコンって言ったの、そういうわけだったんだ。
はしゃぐ大森くんに対して、吉野くんは実に迷惑そう。
けど私、大森くんの気持ちわかるな。
「わ、私も、日向ちゃんやたっくんと遊んでた吉野くん、いいと思ったよ。普段とは全然違ってビックリしたけど、すごく優しそうだったし、見ていて癒される」
「おぉっ。坂部さん、見る目あるね」
「お前ら、いい加減にしろ」
盛り上がる私と大森くんを、吉野くんはじとっとした目で睨む。
ど、どうしよう。吉野くん、怒っちゃったかな?
けど大森くんは笑って言う。
「大丈夫。本気で怒ってはいないから」
「そ、そうなの?」
吉野くんは、プイッとそっぽを向いて何も言わなかった。
けど私もなんとなく、大森くんの言う通りな気がした。
学校に行き校門をくぐると、少し前を吉野くんが歩いてる。
そしてその横には、一人の女の子がいた。
「あれって、草野さん?」
草野さんは私と同じクラスで、学年屈指の美少女。
そんな彼女が吉野くんと並んで歩くと、とっても映える。って言いたいところだけど、そんな雰囲気じゃ無さそう。
草野さんは、あれこれ吉野くんに話しかけるけど、吉野くんは興味なさげって感じ。
そういえば草野さん、吉野くんに告白してフラれたって、紫が言ってたっけ。
やがて、草野さんは大きく声をあげた。
「ひどい! だったらもういいよ!」
そうしてクルリと後ろを向き、逃げるように駆け出していく。
私のすぐ横を通っていったけど、その時の草野さん、怒りと悲しみが混ざったような、なんとも言えない表情をしていた。
吉野くんも振り返ってそれを見送ったけど、その時、私と目が合った。
「よう」
「あっ。お、おはよう」
「昨日は、日向の写真ありがとな」
「う、うん……」
吉野くんは普通に挨拶してくるけど、私も普通にしてていいのかな?
あんなの見た後じゃ気まずいよ。
「えっと……今の、 何かあったの?」
「少し前に、色々あったんだよ」
「色々って、えっと……告白とか?」
「知ってたのか。まあ、そういうこと」
噂、本当だったんだ。
疑ってたわけじゃないけど、こうして直接本人の口から聞くと、噂で聞くよりずっと重く感じる。
「断ったけど、ならせめて、今日の放課後遊びに行こうって言われた。それも断ったけどな」
「それって日向ちゃんのお迎えがあるから?」
「ああ。理由までは言ってないけどな」
草野さんはそれが不満で、あんな顔してたんだ。
「けど迎えを抜きにしても、答えは変わらなかったろうな。付き合うとか興味無いし、アイツのことよく知らないから」
学年屈指の美少女をバッサリ。さすが氷の王子様って言われるだけのことはあるよ。
「女の子と付き合うの、興味ないんだ」
「そんなことしてる暇があったら、日向と一緒にいられる時間を作る」
昨日、私が思った通りのことを言い出した。
草野さん、そんな理由でフラれたなんて思わないだろうね。
「本当に、日向ちゃんのこと大好きなんだね」
「ああ。大事な妹だからな」
これじゃ、吉野くんに本気で恋してる子たちは大変そう。
けど私は、日向ちゃんを大事にする吉野くんのこと、氷の王子様って呼ばれてるクールな姿よりも好きかも。
そのまま私たちは、なんとなく並んで歩く。
そうして、下駄箱まで来た時だった。
「よう、星。お前が女子と一緒なんて珍しいな」
一人の男子が、吉野くんにそんなことを言ってきた。
その子は、隣のクラスの大森俊介くん。吉野くんの友達で、すっごくフランクに話せる数少ない人だ。
「俺が誰と一緒にいようと勝手だろ」
「そうだけどさ、お前、言い寄ってくる女子がいても、いつも近寄んなって感じじゃないか」
その言い方だと吉野くんがすっごく冷たい人みたいに聞こえるけど、たった今草野さんの誘いをキッパリ断ってたから、否定できないかも。
「えっと……君は確か、坂部さんだっけ」
「そうだけど、どうして知ってるの?」
「同じ学年だし、顔と名前くらいだいたいわかるでしょ」
「えっ、でも……」
私は、他のクラスだと名前知らない人もけっこういるよ。吉野くんなんて、同じクラスなのに昨日まで私の名前知らなかったんだけど。
「……悪かったな」
「あ、いや、別に……」
この話題、引き伸ばすと気まずくなりそうだし、これ以上何も言わないでおこう。
「で、なんで二人が一緒にいるんだ?」
「そこで会っただけだ。昨日、学校が終わった後にたまたま会ったから、その時の話をしてたんだ」
「昨日? けどお前、学校が終わったらすぐに日向ちゃんを迎えに行ってるじゃないか?」
「こいつの甥っ子も日向と同じ保育園通ってて、迎えに来てたんだよ」
「えっ?」
そこまで話すと、森田くんは驚いたように目を見開き、それから私にコソッと囁いた。
「じゃあもしかして、星と日向ちゃんが一緒のところ見た?」
「ええ、まあ……」
「すごくなかった?」
「それは……」
すごいというか、ビックリしたかな。
けどそう言っちゃうと、吉野くん怒るかも。
大森くんも、どうしてそんな言い方するかな。そういえば吉野くん、大森くんにシスコンってからかわれたことがあるって言ってたっけ。
「わ、私だって甥っ子のこと大好きだから、吉野くんが日向ちゃんを可愛がる気持ち、わかるよ。日向ちゃんすっごく可愛いし、あんな妹がいたら私も夢中になっちゃうよ!」
日向ちゃんが大好きだっていい。って言うか、あんなに可愛いんだから大好きになって当然。
そう伝えたくて、叫ぶように言う。
「そ、そうか。そこまで勢いよく言われるとは思わなかったから、驚いたな」
「えっ。そう?」
もしかして、引かれた?
そう思ったけど、大森くんはニコッと笑ったかと思うと、吉野くんの背中をバシバシと叩き出した。
「やったな! お前の日向ちゃん愛、わかってくれる子いたぞ。言っただろ。お前、普段無愛想なんだから、そういう人間らしいところを見せていけって」
「余計なお世話だ。だいたい、お前がシスコンシスコン言うから、人前では言いたくなくなったんだよ」
「だから、お前のシスコンはチャームポイントなんだって。氷の王子にそんな一面があるって知ったら、ますます女子人気上がるぞ」
「なら、なおさら言わなくていい。興味ない奴に言いよられても迷惑なだけだ」
大森くん、吉野くんのことシスコンって言ったの、そういうわけだったんだ。
はしゃぐ大森くんに対して、吉野くんは実に迷惑そう。
けど私、大森くんの気持ちわかるな。
「わ、私も、日向ちゃんやたっくんと遊んでた吉野くん、いいと思ったよ。普段とは全然違ってビックリしたけど、すごく優しそうだったし、見ていて癒される」
「おぉっ。坂部さん、見る目あるね」
「お前ら、いい加減にしろ」
盛り上がる私と大森くんを、吉野くんはじとっとした目で睨む。
ど、どうしよう。吉野くん、怒っちゃったかな?
けど大森くんは笑って言う。
「大丈夫。本気で怒ってはいないから」
「そ、そうなの?」
吉野くんは、プイッとそっぽを向いて何も言わなかった。
けど私もなんとなく、大森くんの言う通りな気がした。


