空に向かって、体育祭の開始を告げる花火が打ち上げられる。
 今日はいよいよ体育祭の本番だ。

 うちの学校の体育祭は、家族の見学もOK。
 校庭には、生徒の家族がたくさん集まっていた。
 その中には、私の家族もいる。

「ほら、巧。知世お姉ちゃんいたよ」
「知世ちゃんガンバレーっ!」

 お姉ちゃんに抱っこされながら、たっくんが応援してくれる。
 本当なら手を振ってあげたいけど、今は入場行進の最中だから、残念だけど我慢。
 そしてそんなたっくんの隣には、お父さんに抱っこされた日向ちゃんがいた。

「お兄ちゃーん!」

 家出騒動から一夜明けて、日向ちゃんも、お父さんと一緒にたっくんの応援に来ていたの。
 しかも応援場所は、お姉ちゃんたちのすぐ横。いつの間に連絡とってたんだろう。
 入場行進の後は開会式に移って、それから競技開始。
 しばらく出る競技のない私は、自分たちのクラスのテントに入り、吉野くんに声をかけた。

「日向ちゃん、応援に来たの?」
「ああ。父さんが、遊びに行きたい場所はあるかって聞いたら、動物園でも水族館でもなく、俺の学校の体育祭って言ったらしい」

 きっとそれだけ、吉野くんのことを応援したかったんだね。
 すっごく日向ちゃんらしいと思う。

「父さんは、急に休みをとるのにかなり苦労したみたいだけどな」

 吉野くんのお父さんがどんなお仕事してるのかは知らないけど、お休みとるのにそんなに苦労するなんて大変。
 けど吉野くんの話では、昨日のことがなくても、近々仕事を減らすつもりだったみたい。

「もっと家族の時間を大事にしたいって言って、色々根回しはしてたんだと。それが、予定より少し早まったらしい」

 吉野くんのお父さんも、色々考えてたんだ。
 笑っている日向ちゃんを見ると、きっとそれでよかったんだって思えてくる。

 そこまで話したところで、ほんの少しだけ、会話が途切れる。それから、急に緊張してきた。
 その理由はもちろん、昨日日向ちゃんを見つけて帰る途中にあった、あの出来事のせい。

「あ、あのさ、吉野くん。昨日私に言ったこと、覚えてる?」

 まずは、これを確認しなきゃ。
 もしかしたら、私の聞き間違いや妄想かもしれないから。

「お前と付き合いたいとか、好きだとか言ったことか?」
「────っ!」

 聞き間違いじゃなかった! 妄想でもなかった!
 あの話は、途中で中断したし、その後すぐに吉野くんのうちに帰りついたんだけど、それからはとても話せる状況じゃなかったの。
 だから、改めて好きだって聞けて、すごくドキドキしてくる。

「お前こそ、ちゃんと覚えているよな。俺のこと……好きって言ったの」
「も、もちろん」

 本当に、両思いなんだ。
 どうしよう。嬉しすぎて、今にも叫び出しそう。
 も、もちろん、周りに人もいるし、そんなことできないけどね。
 すると吉野くんも、辺りを気にするように見回し、わざとらしく咳払いをする。

「そ、それはそうと。俺、これから日向たちのところに行くけど、坂部はどうする?」
「えっ? えぇっと……」

 そうだよね。私たちのことも大事だけど、応援してくれるみんなのところにも、行ってあげなきゃ。

「も、もちろん行くよ」

 そうして私たちは、そろってテントを出る。
 その時、吉野くんがそっと囁いた。

「さっきの話の続きは、後でちゃんとやるから」
「う、うん……」

 また、一気にドキドキがうるさくなる。
 この調子で、今日一日心臓が持つかな?