吉野くんにこんなこと言ってもらえるなんて、すごく嬉しい。
 けどね。突然すぎて、まだ全然信じられないの。

「あ、あの、その……ど、どうして? 私、吉野くんに好きになってもらえるようなことって、何かしたっけ?」

 こんなこと聞くのも恥ずかしいけど、それでも聞かずにはいられない。
 するとそれを聞いた吉野くんは、フッと吹き出した。

「自覚なしかよ」
「し、仕方ないじゃない。だって吉野くん、女の子から言い寄られるなんてしょっちゅうだし、なのになんで私なの?」
「そういう下心がないから、変に気を張らずにいられた。まずは、それが理由だな」
「そうなの?」
「ああ。二人で話す時も、恋愛とかじゃなくて、日向やたっくんの話に夢中になってただろ」

 それは、確かに。
 二人のどこが可愛いとか、この写真がベストショットとか、そういうので盛り上がってたっけ。

「でも、それだと余計に恋愛にはならないんじゃないの?」
「ああ。だから最初は、坂部のことそんな風には見てなかった。けどそうしているうちに、だんだん見えてきたんだよ。いいところや、可愛いところが」
「か、可愛い!?」

 吉野くんの口から、可愛いなんて言葉が飛び出すなんて。
 日向ちゃんに対して言ってるのは、今まで散々聞いてきたけど、私が言われると、言葉の壊力が違いすぎる。
 また顔が火照ってきて、もう一度布団で覆いたくなる。
 だけどその時、吉野くんの顔も、赤く染まっているのに気づく。
 赤くなった顔で、少しだけ目線を逸らしていた。

「吉野くん、もしかして、照れてる?」
「悪いかよ。好きなやつにこんなこと言うんだ。動揺だってするだろ」

 動揺してるんだ。
 そうだよね。聞いてるだけでこんなにドキドキしてるんだから、言う方はもっとすごいに決まってる。

「わ、私だって、吉野くんのいいところやかっこいいところ、たくさん見てきたよ。日向ちゃんのことすごく大事にしてるし、ナンパされた時や倉庫に閉じ込められた時は、助けてくれた」
「な、なんだよ急に。今は、俺のことはどうでもいいだろ」
「よくないよ!」

 だってこれは、私が吉野くんを好きになった理由。吉野くんの気持ちに応える理由なんだから。

「私も好きだよ。吉野くんのこと!」

 吉野くんの目が、大きく見開かれる。

「告白されたからじゃないの。優しいところも助けてくれたところも好きで、少し前から、一緒にいると、ドキドキしてた。これが、好きって言ってくれたことへの答えなんだけど、いいかな?」

 吉野くんは、すぐには何も答えない。
 ただ、真っ赤にした顔を、手で覆うようにして隠してた。
 それから、ポツリと呟く。

「ヤバい。嬉しすぎ」

 吉野くんの、こんなにも照れた表情が見られるなんて。
 普段、氷の王子様って呼ばれる姿からは、とても想像がつかない。
 だけど顔が赤くなったりドキドキしたりしてるのは、私も同じ。
 こんなふうに誰かに好きって伝えるのなんて、初めてだから。

「吉野くん……」
「坂部……」

 お互い名前を呼び合って、自然と距離が縮まっていく。
 だけど、その時だった。

「うぅん…………お兄ちゃん?」

 吉野くんの背中で、日向ちゃんが寝ぼけたような声をあげた。
 そ、そうだ。日向ちゃんがいたんだ!

「え、えっと……とりあえず、早く帰ろうか」
「そ、そうだな」

 こうして私たちは、好きと伝え合った直後、日向ちゃんと一緒に、急いで吉野くんのうちに向かったのだった。