とにかく、草野さんたちがいなくなって、これで一件落着。
なんだけど、安心したとたん、身体中から力が抜けて崩れ落ちそうになる。
と思ったら、吉野くんがすかさず手を伸ばして支えてくれた。
「おい、大丈夫か!」
「う、うん。ありがとう……」
支えてくれるってことは、それだけ密着しているってことで、カッと顔が熱くなり、心臓がドキドキしてくる。
慌てて自分の足で立つと、吉野くんは次に大森くんに目を向ける。
「俊介。お前、なんであんなこと言った。その……坂部が、俺の彼女だってことだよ!」
それ、蒸し返すんだ。
そりゃそうだよね。すっごくびっくりしたんだもん。
「いいじゃないか。それくらい言った方が、あの子たちも諦めつくだろ。星だって、その方がいいって思ったから乗ったんだろ」
「あの状況で違うなんて言えるか! それに、坂部が俺のためにあれだけ頑張ったんだ。俺だって何かしたいって思ったら、つい……」
「へっ!?」
吉野くんのために頑張ったって、私なにかしたっけ?
「あいつらから酷いこと言われてた時、お前言ったよな。俺が迷惑してたって。俺のこと好きなら、そんなことするなって」
「あっ……」
あの時は無我夢中だったけど、吉野くん本人に聞かれてたのは、なんだか恥ずかしい。
「そうそう。俺も、あれ見ておぉって思ったよ。坂部さん、かっこいいじゃない」
「なっ!?」
「俊介。お前は黙ってろ。けどまあ、確かに、あれはかっこよかったな」
「ふえぇっ!?」
揃ってかっこいいなんて言うもんだから、またまた恥ずかしくなってくる。
「べ、別に、かっこくしようと思って言ったわけじゃないんだけど」
「わかってるよ。けど、俺のために怒ってくれたこと、嬉しかったんだ。ありがとな」
「え、 ええと……どういたしまして?」
草野さんたちに囲まれてた時とは全然違う意味で、頭の中がぐちゃぐちゃになっていた。
「けどやっぱり、勝手に彼女って言うのはなかったよな。悪い」
「ううん。私も、吉野くんにああ言ってもらえて、嬉しかったから」
ん? 嬉しかった?
自分で言っておいて、なんだか引っかかる。
嘘ついてまで守ってくれたこと、嬉しいって思うのは、どこも変じゃないのに、なんでだろう。
『坂部は、俺の彼女だから』
嘘だってわかっているはずのその言葉。
なのに、いつまでたっても忘れられなくて、何度も頭の中で繰り返し響いていた。
それから私たちは、揃って教室に戻る。
吉野くんは、辛いなら保健室で休むかって言ってくれたけど、助けてもらったおかげで、そこまでしなくても大丈夫だった。
そうして教室の扉を開けると、私を見るなり、すぐさま紫が駆け寄ってきた。
「知世! いったい何があったの!?」
「へっ? 何がって、何?」
「吉野くん。あと大森くんが、血相変えて知世のこと探してたって。みんな、何があったのかって話てるよ!」
「そんなことになってるの!?」
って言うか吉野くん、血相変えて探してたんだ。
「そういえば、そんなこともあったかもな」
隣にいる吉野くんが、少し照れたように言って、そっぽを向いた。
「いったい何があったの? って、これって聞いていいやつ?」
興奮気味に質問してきた紫だけど、最後の方はちょっとだけ遠慮がちになる。
どうしよう。言った方がいいのかな?
一瞬どうしようか考えたけど、結局、何があったか話すことにした。
草野さんたちの名前は伏せて、私が女子と揉めたことと、さっき吉野くんが助けてくれたっていう、本当に最小限のことだけをかいつまんで話す。
「知世、そんなことになってたの!? でも吉野くんのファンって過激な子もいるから、そういうこともあるかも。どうして言ってくれなかったのさ! また何かあったら言ってよね。力になるから」
「うん。ありがとう、紫」
何があったか知って、すぐにこう言ってくれるのが、頼もしくて、嬉しい。
「でも、多分もう大丈夫だから」
泣きながら去っていった草野さんたちを思い出す。
さすがに、これ以上何かしてくるとは思えないよ。
心配ないって言って聞かせると、紫も「そう」って、安心したように息をつく。
それから紫は、チラッと吉野くんを見る。
「それとついでだけど、これも聞いていい? 知世と吉野くんって、どういう関係なの? もしかして付き合ってるとか?」
「えぇっ?」
紫、いきなりなに言い出すの!
ついさっき、付き合ってるって嘘を草野さんたちについたばかりだから、あまりのタイミングに目を丸くする。
「だって、その……吉野くんが女の子をここまで気にするなんて、まずないじゃない。二人とも最近仲良いみたいだし、そういうことかって思って。って言うか、けっこうな人がそう噂してるから」
そんな噂まで流れてるの!?
もちろん、私たちは付き合ってなんかいないんだけど、正直に答えてもいいのかな?
さっき草野さんたちに、付き合ってるって嘘をついたんだよね。
ここで違うって言ったら、まずいことになるかも。
吉野くんを見ると、私と同じことを考えてるみたいで、どちらともなく頷き合う。
そして、さっき草野さんたちの前で言ったのと、全く同じ嘘をつく。
「ああ、その通りだ」
「えっと…………そういうことになるかな」
「えっ? えっ? えぇぇぇーーーーっ!?!?」
とたんに、絶叫する紫。
さらに、こっちを見ていた人たちもザワザワと騒ぎ始める。
ああ、教室中に知れ渡っちゃった。
けど今は、そんな周りの声よりも、自分の心臓の音の方がうるさく思えた。
(言っちゃった。吉野くんと付き合ってるって、言っちゃったよ!)
こんなに心臓がうるさいのは、嘘をついた罪悪感から?
ったけど、多分違う。
吉野くんと一緒にいると、ドキドキする理由。
それがなんなのか、少しずつ気づき始めていた。
なんだけど、安心したとたん、身体中から力が抜けて崩れ落ちそうになる。
と思ったら、吉野くんがすかさず手を伸ばして支えてくれた。
「おい、大丈夫か!」
「う、うん。ありがとう……」
支えてくれるってことは、それだけ密着しているってことで、カッと顔が熱くなり、心臓がドキドキしてくる。
慌てて自分の足で立つと、吉野くんは次に大森くんに目を向ける。
「俊介。お前、なんであんなこと言った。その……坂部が、俺の彼女だってことだよ!」
それ、蒸し返すんだ。
そりゃそうだよね。すっごくびっくりしたんだもん。
「いいじゃないか。それくらい言った方が、あの子たちも諦めつくだろ。星だって、その方がいいって思ったから乗ったんだろ」
「あの状況で違うなんて言えるか! それに、坂部が俺のためにあれだけ頑張ったんだ。俺だって何かしたいって思ったら、つい……」
「へっ!?」
吉野くんのために頑張ったって、私なにかしたっけ?
「あいつらから酷いこと言われてた時、お前言ったよな。俺が迷惑してたって。俺のこと好きなら、そんなことするなって」
「あっ……」
あの時は無我夢中だったけど、吉野くん本人に聞かれてたのは、なんだか恥ずかしい。
「そうそう。俺も、あれ見ておぉって思ったよ。坂部さん、かっこいいじゃない」
「なっ!?」
「俊介。お前は黙ってろ。けどまあ、確かに、あれはかっこよかったな」
「ふえぇっ!?」
揃ってかっこいいなんて言うもんだから、またまた恥ずかしくなってくる。
「べ、別に、かっこくしようと思って言ったわけじゃないんだけど」
「わかってるよ。けど、俺のために怒ってくれたこと、嬉しかったんだ。ありがとな」
「え、 ええと……どういたしまして?」
草野さんたちに囲まれてた時とは全然違う意味で、頭の中がぐちゃぐちゃになっていた。
「けどやっぱり、勝手に彼女って言うのはなかったよな。悪い」
「ううん。私も、吉野くんにああ言ってもらえて、嬉しかったから」
ん? 嬉しかった?
自分で言っておいて、なんだか引っかかる。
嘘ついてまで守ってくれたこと、嬉しいって思うのは、どこも変じゃないのに、なんでだろう。
『坂部は、俺の彼女だから』
嘘だってわかっているはずのその言葉。
なのに、いつまでたっても忘れられなくて、何度も頭の中で繰り返し響いていた。
それから私たちは、揃って教室に戻る。
吉野くんは、辛いなら保健室で休むかって言ってくれたけど、助けてもらったおかげで、そこまでしなくても大丈夫だった。
そうして教室の扉を開けると、私を見るなり、すぐさま紫が駆け寄ってきた。
「知世! いったい何があったの!?」
「へっ? 何がって、何?」
「吉野くん。あと大森くんが、血相変えて知世のこと探してたって。みんな、何があったのかって話てるよ!」
「そんなことになってるの!?」
って言うか吉野くん、血相変えて探してたんだ。
「そういえば、そんなこともあったかもな」
隣にいる吉野くんが、少し照れたように言って、そっぽを向いた。
「いったい何があったの? って、これって聞いていいやつ?」
興奮気味に質問してきた紫だけど、最後の方はちょっとだけ遠慮がちになる。
どうしよう。言った方がいいのかな?
一瞬どうしようか考えたけど、結局、何があったか話すことにした。
草野さんたちの名前は伏せて、私が女子と揉めたことと、さっき吉野くんが助けてくれたっていう、本当に最小限のことだけをかいつまんで話す。
「知世、そんなことになってたの!? でも吉野くんのファンって過激な子もいるから、そういうこともあるかも。どうして言ってくれなかったのさ! また何かあったら言ってよね。力になるから」
「うん。ありがとう、紫」
何があったか知って、すぐにこう言ってくれるのが、頼もしくて、嬉しい。
「でも、多分もう大丈夫だから」
泣きながら去っていった草野さんたちを思い出す。
さすがに、これ以上何かしてくるとは思えないよ。
心配ないって言って聞かせると、紫も「そう」って、安心したように息をつく。
それから紫は、チラッと吉野くんを見る。
「それとついでだけど、これも聞いていい? 知世と吉野くんって、どういう関係なの? もしかして付き合ってるとか?」
「えぇっ?」
紫、いきなりなに言い出すの!
ついさっき、付き合ってるって嘘を草野さんたちについたばかりだから、あまりのタイミングに目を丸くする。
「だって、その……吉野くんが女の子をここまで気にするなんて、まずないじゃない。二人とも最近仲良いみたいだし、そういうことかって思って。って言うか、けっこうな人がそう噂してるから」
そんな噂まで流れてるの!?
もちろん、私たちは付き合ってなんかいないんだけど、正直に答えてもいいのかな?
さっき草野さんたちに、付き合ってるって嘘をついたんだよね。
ここで違うって言ったら、まずいことになるかも。
吉野くんを見ると、私と同じことを考えてるみたいで、どちらともなく頷き合う。
そして、さっき草野さんたちの前で言ったのと、全く同じ嘘をつく。
「ああ、その通りだ」
「えっと…………そういうことになるかな」
「えっ? えっ? えぇぇぇーーーーっ!?!?」
とたんに、絶叫する紫。
さらに、こっちを見ていた人たちもザワザワと騒ぎ始める。
ああ、教室中に知れ渡っちゃった。
けど今は、そんな周りの声よりも、自分の心臓の音の方がうるさく思えた。
(言っちゃった。吉野くんと付き合ってるって、言っちゃったよ!)
こんなに心臓がうるさいのは、嘘をついた罪悪感から?
ったけど、多分違う。
吉野くんと一緒にいると、ドキドキする理由。
それがなんなのか、少しずつ気づき始めていた。


