今日の実行委員の活動内容は、実行委員対抗のリレーの順番確認。それに、いつもと同じ諸々の準備だ。
この頃になると、力を使う作業も増えてきていた。
「うぅ、疲れる……」
今私は、入場門を作るための資材を運んでる最中。
これが重くて、あちこち移動しているうちに、息があがってきた。
だけど、苦労して抱えていた資材が、突然フッと軽くなる。
「これ、向こうまで運べばいいんだよな?」
「吉野くん?」
吉野くんは、私の代わりに資材を運ぼうとしていた。
「いいよ、私の仕事なんだし。それに、重いでしょ」
「その重いのを今まで持ってたのはお前だろ。俺の方が力あるから、適材適所だ。あと、他のやつらは適度に休憩してるし、お前も少しは休め」
「うん。ありがとね」
その言葉に甘えて、少しだけ休む。
資材を持ってもらった時は、少しドキッとしたな。
モタモタやってるのを見かねただけなんどろうけどさ、さっき大森くんにあんなこと言われたから、ちょっぴり意識しちゃうよ。
すこし休憩して、作業に戻ろうと思った時だった。
「坂部さん。少し手伝ってくれない?」
そう声をかけてきたのは、隣のクラスの木村さん。
木村さん、今日は来てたんだっけ。
というのも、実は木村さん、最初の頃は何かと吉野くんに話しかけていたんだけど、吉野くんがほとんど相手にせずにいたら、実行委員の集まりに来なくなっていったの。
来ない時は、それなりに理由をつけてるみたいなんだけどね。
「何をすればいいの?」
「第三倉庫ってあるでしょ。そこにしかないものを取ってきてほしいんだって。坂部さんも一緒に来てよ」
「いいよ」
こうして私たちは、第三倉庫に向かう。
この学校には倉庫がいくつかあるけど、第三倉庫は少し離れたところにあった。
「私、この倉庫入ったの初めて」
「普段は滅多に来ない場所だからね。近寄ることだってないんじゃないの」
木村さんの言う通り、実行委員の仕事中も、今までの学校生活の中でも、ここに来たことはほとんどなかった。
「電気のスイッチってどこかな? 坂部さん、そっち探してくれない?」
「うん」
倉庫の中は暗くて、このままじゃ何も見えない。
壁に手を当て、スイッチを探している最中だった。
ドン!
突然背中を押されて、倉庫の床に倒れる。
「きゃっ!」
何が起きたの?
痛みと驚きで頭が真っ白になるけど、それだけじゃ終わらなかった。
体を起こして立ち上がろうとした時、倉庫の扉がピシャリと閉じられた。
閉じたのは、木村さんだ。
「ちょっと、どういうこと!」
慌てて扉を開けようとするけど、外からガチャリと音がして、押しても引いてもビクともしない。
もしかして、鍵をかけたの!?
「な、なんでこんなことするの? 出してよ!」
扉をガンガン叩いて、木村さんを呼ぶ。
だけど外から聞こえてきたのは、木村さんとは違う声だった。
「うるさいんだけど。そんなことしてもムダだから、静かにしてよね」
「えっ────あなた、草野さん?」
それは、ついさっき話した草野さんの声だった。
それから、木村さんを含めた、数人の笑い声が聞こえてくる。
「ねえ、出してよ!」
怯えながら叫ぶけど、そんな私を笑うように、草野さんの声が届く。
「ねえ坂部さん。実行委員、変わってくれる気になった?」
「えっ?」
まさか、そのためにこんなことしたの?
だけど次に聞こえてきた言葉は、それよりもさらに醜悪だった。
「なんてね。もうそれだけじゃ許さないから。私たち、みんな吉野くんのこと好きだったの。近づきたくて、たくさん頑張って、それでも上手くいかなかった。なのにあなたは吉野くんの近くにいて、そんなのずるいじゃない。だからこれは、そのおしおき」
草野さんは、さっき私にお願いしてきた時のような可愛い声で、とても恐ろしいことを言う。
草野さんだけじゃない。
木村さんや、扉の向こうにいる人全員が、そんなことを考えてるんだ。
「私と吉野くんは、そんなんじゃないから!」
「嘘! じゃあ、どうして実行委員代わるの断ったの!」
「それは……」
とたんに何も言えなくなる。
あの時どうして代わりたくないって思ったのか、自分の気持ちなのにがわからない。
「ほら、言えないってことは、やましい気持ちがあるんでしょ。私のこと邪魔したくて断ったんでしょ!」
「ちが……」
違う。そう言おうとしたけど、本当にそうなのかな?
草野さんには、吉野くんに近づいてほしくない。そんな気持ち、本当に少しもなかったのかな?
「まあいいや。しばらくここで反省しなさい」
「そんな!」
しばらくって、どれくらい?
そんな疑問に答える人は誰もいない。
さらに、草野さんの言葉は続く。
「吉野くんには、あなたは勝手に帰ったって言っておくから。あと、この倉庫に用事があるってのも、全部嘘。あなたがここにいること、私たち以外誰も知らないわ。もしかすると、明日までここにいることになるかも」
「────っ! ま、待って! 出して!」
ガンガンと、手が痛くなるくらい、何度も何度も扉を叩く。
だけど、鍵のかかった扉はビクともしない。草野さんたちの足音が遠ざかっていくのを、絶望的な気持ちで聞くことしかできなかった。
この頃になると、力を使う作業も増えてきていた。
「うぅ、疲れる……」
今私は、入場門を作るための資材を運んでる最中。
これが重くて、あちこち移動しているうちに、息があがってきた。
だけど、苦労して抱えていた資材が、突然フッと軽くなる。
「これ、向こうまで運べばいいんだよな?」
「吉野くん?」
吉野くんは、私の代わりに資材を運ぼうとしていた。
「いいよ、私の仕事なんだし。それに、重いでしょ」
「その重いのを今まで持ってたのはお前だろ。俺の方が力あるから、適材適所だ。あと、他のやつらは適度に休憩してるし、お前も少しは休め」
「うん。ありがとね」
その言葉に甘えて、少しだけ休む。
資材を持ってもらった時は、少しドキッとしたな。
モタモタやってるのを見かねただけなんどろうけどさ、さっき大森くんにあんなこと言われたから、ちょっぴり意識しちゃうよ。
すこし休憩して、作業に戻ろうと思った時だった。
「坂部さん。少し手伝ってくれない?」
そう声をかけてきたのは、隣のクラスの木村さん。
木村さん、今日は来てたんだっけ。
というのも、実は木村さん、最初の頃は何かと吉野くんに話しかけていたんだけど、吉野くんがほとんど相手にせずにいたら、実行委員の集まりに来なくなっていったの。
来ない時は、それなりに理由をつけてるみたいなんだけどね。
「何をすればいいの?」
「第三倉庫ってあるでしょ。そこにしかないものを取ってきてほしいんだって。坂部さんも一緒に来てよ」
「いいよ」
こうして私たちは、第三倉庫に向かう。
この学校には倉庫がいくつかあるけど、第三倉庫は少し離れたところにあった。
「私、この倉庫入ったの初めて」
「普段は滅多に来ない場所だからね。近寄ることだってないんじゃないの」
木村さんの言う通り、実行委員の仕事中も、今までの学校生活の中でも、ここに来たことはほとんどなかった。
「電気のスイッチってどこかな? 坂部さん、そっち探してくれない?」
「うん」
倉庫の中は暗くて、このままじゃ何も見えない。
壁に手を当て、スイッチを探している最中だった。
ドン!
突然背中を押されて、倉庫の床に倒れる。
「きゃっ!」
何が起きたの?
痛みと驚きで頭が真っ白になるけど、それだけじゃ終わらなかった。
体を起こして立ち上がろうとした時、倉庫の扉がピシャリと閉じられた。
閉じたのは、木村さんだ。
「ちょっと、どういうこと!」
慌てて扉を開けようとするけど、外からガチャリと音がして、押しても引いてもビクともしない。
もしかして、鍵をかけたの!?
「な、なんでこんなことするの? 出してよ!」
扉をガンガン叩いて、木村さんを呼ぶ。
だけど外から聞こえてきたのは、木村さんとは違う声だった。
「うるさいんだけど。そんなことしてもムダだから、静かにしてよね」
「えっ────あなた、草野さん?」
それは、ついさっき話した草野さんの声だった。
それから、木村さんを含めた、数人の笑い声が聞こえてくる。
「ねえ、出してよ!」
怯えながら叫ぶけど、そんな私を笑うように、草野さんの声が届く。
「ねえ坂部さん。実行委員、変わってくれる気になった?」
「えっ?」
まさか、そのためにこんなことしたの?
だけど次に聞こえてきた言葉は、それよりもさらに醜悪だった。
「なんてね。もうそれだけじゃ許さないから。私たち、みんな吉野くんのこと好きだったの。近づきたくて、たくさん頑張って、それでも上手くいかなかった。なのにあなたは吉野くんの近くにいて、そんなのずるいじゃない。だからこれは、そのおしおき」
草野さんは、さっき私にお願いしてきた時のような可愛い声で、とても恐ろしいことを言う。
草野さんだけじゃない。
木村さんや、扉の向こうにいる人全員が、そんなことを考えてるんだ。
「私と吉野くんは、そんなんじゃないから!」
「嘘! じゃあ、どうして実行委員代わるの断ったの!」
「それは……」
とたんに何も言えなくなる。
あの時どうして代わりたくないって思ったのか、自分の気持ちなのにがわからない。
「ほら、言えないってことは、やましい気持ちがあるんでしょ。私のこと邪魔したくて断ったんでしょ!」
「ちが……」
違う。そう言おうとしたけど、本当にそうなのかな?
草野さんには、吉野くんに近づいてほしくない。そんな気持ち、本当に少しもなかったのかな?
「まあいいや。しばらくここで反省しなさい」
「そんな!」
しばらくって、どれくらい?
そんな疑問に答える人は誰もいない。
さらに、草野さんの言葉は続く。
「吉野くんには、あなたは勝手に帰ったって言っておくから。あと、この倉庫に用事があるってのも、全部嘘。あなたがここにいること、私たち以外誰も知らないわ。もしかすると、明日までここにいることになるかも」
「────っ! ま、待って! 出して!」
ガンガンと、手が痛くなるくらい、何度も何度も扉を叩く。
だけど、鍵のかかった扉はビクともしない。草野さんたちの足音が遠ざかっていくのを、絶望的な気持ちで聞くことしかできなかった。


