「もう少ししたら、お姉ちゃんたちのところに行った方がいいかな?」
吉野くんと私は、行きたい場所を交互に挙げて回っていたけど、気づけば予定していた合流の時間まであと少しになっていた。
「いつの間にか、結構時間が経っていたんだな」
「そうだね」
最初は、吉野くんと一緒に回るとなって緊張してたけど、いつの間にか無くなってた。
そう思っていると、賑やかな音楽が聞こえてきた。
見ると、この遊園地のマスコットくま吉とその仲間たちのパレードだった。
「なあ。あれ、写真に撮っておいた方がいいんじゃないか」
「そうだね。たっくんや日向ちゃん、くま吉に会いたいってはしゃいでたから、パレードだって見たかったかも」
そうと決まれば、スマホを構えて次々写真を撮りはじめる。
パレードの列が通り過ぎようとしたら、ちょっとだけ追いかけて、さらに撮る。
だけど、満足するまで撮り終わったところで気づいた。
「あれ、吉野くんは?」
吉野くんの姿がどこにもない。
さっきまで、すぐ近くで写真をとってたのに。
もしかして、はぐれた?
辺りを見ても、やっぱり見つからない。
「どうしよう。あっ、そうだ。スマホで連絡すればいいんだ」
メッセージを送ろうとしたけど、そこで不意に声をかけられた。
「ねえ。君、一人?」
「えっ?」
見みると、そこにいたのは知らない男の子が三人。
みんな、私より年上っぽい。
「キョロキョロしてたけど、大丈夫?」
「はい。もう何とかなりそうなので」
はぐれた時はどうしようかと思ったけど、スマホで連絡できる。
だけどそこで、男の子の一人が言う。
「ねえ、せっかくだからさ、これから俺たちと一緒に回らない?」
「えっ……?」
なんで今の話でそういうことになるの?
まさか、これってナンパってやつ?
そんなはずないよね。そういうのって、もっと可愛い子にするものでしょ?
けど、この人たちとはあまり関わらない方がいいかも。
「あの。私、家族や友達と一緒に来てるので……」
逃げようとしたけど、そこで一人が、私の手をがっちりと握ってきた。
「えぇ〜っ。そんなのどこにいるのさ?」
「や、やめてください……」
叫びたかったけど、体が震えて、小さい声しか出てこない。
どうしよう。どうしよう。どうしよう────
パニックになりかけたその時だった。
「おい、何してる」
突然の言葉。同時に、私を掴んでた手が、無理やり引き離される。
「よ、吉野くん!?」
いつの間にいたんだろう。
そこにいたのは吉野くん。吉野くんは私を庇うように立つと、キッと男の子たちを睨みつけた。
「嫌がってるのもわかんねーのかよ」
「あ? なんだよお前」
「こいつの知り合いだよ。お前たちこそなんなんだよ」
三人相手なのに、怯む様子は全くない。
むしろ彼の登場に、男の子たちの方が動揺していた。
「文句あるのかよ!」
「当たり前だろ。言っとくが、ここで揉めたらお前らが悪者になるぞ。こんなところで問題起こすか?」
「くっ……」
男の子たちも、騒ぎを起こそうとは思わなかったみたい。チッと大きく舌打ちをすると、三人まとめて去っていった。
その姿が見えなくなったところで、急に体から力が抜ける。
「こ、怖かった……」
「おい、大丈夫か!」
「な、なんとか。けど、ちょっとだけ休んでいい?」
とりあえず、近くにあったベンチに座り込む。
すると吉野くんが、横にあった自動販売機でジュースを買って渡してきた。
「とりあえず、これ飲んで落ち着け」
「う、うん。あっ、お金──」
「いいから、さっさと飲んどけ」
「うん。ありがとう」
凄く怖くてびっくりしたけど、吉野くんのおかげで助かった。
それに守ってくれて、すごくホッとした。
だからかな。ジュースを飲み終わる頃には、だいぶ落ち着くことができたんだ。
「はぐれてごめんね」
「そんなのお互い様だろ。悪かったな」
「そんな。吉野くんが謝ることなんてないじゃない」
「じゃあ、お前も謝るの禁止な」
ボソッとそう言われたけど、それがすごく暖かく感じた。
「もう少し休むか?」
「ううん、もう大丈夫。ほら、この通り。それより、そろそろお姉ちゃんたちと合流しないと」
勢いよくベンチから立ち上がって、平気だってアピールする。
ずいぶん時間が過ぎたから、いい加減行かないとまずいかも。
「そうだな。今度ははぐれないように気をつけるぞ」
「そうだね」
たった今あんなことがあったばかりだし、本当に気をつけた方がよさそう。
そう思ったんだけど……
「ほら」
「えっ?」
よ、吉野くん。私の手をとってるんだけど!
声をあげると、吉野くんは最初はキョトンとしていて、それからハッとしたように手を離した。
「あっ、悪い。はぐれないようにって思ってたら、つい」
「ついって……」
「仕方ないだろ。日向にそう言う時は、いつも手を繋いでるんだから」
ああ。こんなところも、基準は日向ちゃんなんだ。
なんていうか、すっごく吉野くんらしい。
「私は、日向ちゃんじゃないけどね」
「わかってるよ。さっき怖い目にあったばかりなのにまた手を掴んで、嫌じゃなかったか?」
「い、嫌じゃないよ!」
そこを気にしてたんだ。
急に手を握られたのは、驚いたし恥ずかしかったよ。
けど、嫌かってことは絶対にないから!
「吉野くん、私のためにやってくれたんでしょ。日向ちゃんにやってるみたいに」
「そりゃそうだけど……」
「だ、だから、全然平気だよ。ほら!」
さっき離した手を、今度は私から握る。
嫌じゃないってこと、ちゃんと伝えたかった。
「む、むしろ気遣ってくれてありがとうだから!」
「いや、ありがとうって言われることなのか、これ?」
「えっと……どうだろう?」
もう、自分でも何が何だかわかんなくなってる。
「と、とにかく、はぐれないよう気をつけるぞ」
「そ、そうだね。それに、早くお姉ちゃんたちのところにいかなきゃ」
こうして私たちは合流場所に向かうけど、その間も、繋いだ手はそのままだったんだ。
今日一日、ワクワクしたことも怖いことも、たくさんあった。
だけどそのどれよりも、吉野くんと手を繋いでる今が、一番ドキドキしている気がした。
吉野くんと私は、行きたい場所を交互に挙げて回っていたけど、気づけば予定していた合流の時間まであと少しになっていた。
「いつの間にか、結構時間が経っていたんだな」
「そうだね」
最初は、吉野くんと一緒に回るとなって緊張してたけど、いつの間にか無くなってた。
そう思っていると、賑やかな音楽が聞こえてきた。
見ると、この遊園地のマスコットくま吉とその仲間たちのパレードだった。
「なあ。あれ、写真に撮っておいた方がいいんじゃないか」
「そうだね。たっくんや日向ちゃん、くま吉に会いたいってはしゃいでたから、パレードだって見たかったかも」
そうと決まれば、スマホを構えて次々写真を撮りはじめる。
パレードの列が通り過ぎようとしたら、ちょっとだけ追いかけて、さらに撮る。
だけど、満足するまで撮り終わったところで気づいた。
「あれ、吉野くんは?」
吉野くんの姿がどこにもない。
さっきまで、すぐ近くで写真をとってたのに。
もしかして、はぐれた?
辺りを見ても、やっぱり見つからない。
「どうしよう。あっ、そうだ。スマホで連絡すればいいんだ」
メッセージを送ろうとしたけど、そこで不意に声をかけられた。
「ねえ。君、一人?」
「えっ?」
見みると、そこにいたのは知らない男の子が三人。
みんな、私より年上っぽい。
「キョロキョロしてたけど、大丈夫?」
「はい。もう何とかなりそうなので」
はぐれた時はどうしようかと思ったけど、スマホで連絡できる。
だけどそこで、男の子の一人が言う。
「ねえ、せっかくだからさ、これから俺たちと一緒に回らない?」
「えっ……?」
なんで今の話でそういうことになるの?
まさか、これってナンパってやつ?
そんなはずないよね。そういうのって、もっと可愛い子にするものでしょ?
けど、この人たちとはあまり関わらない方がいいかも。
「あの。私、家族や友達と一緒に来てるので……」
逃げようとしたけど、そこで一人が、私の手をがっちりと握ってきた。
「えぇ〜っ。そんなのどこにいるのさ?」
「や、やめてください……」
叫びたかったけど、体が震えて、小さい声しか出てこない。
どうしよう。どうしよう。どうしよう────
パニックになりかけたその時だった。
「おい、何してる」
突然の言葉。同時に、私を掴んでた手が、無理やり引き離される。
「よ、吉野くん!?」
いつの間にいたんだろう。
そこにいたのは吉野くん。吉野くんは私を庇うように立つと、キッと男の子たちを睨みつけた。
「嫌がってるのもわかんねーのかよ」
「あ? なんだよお前」
「こいつの知り合いだよ。お前たちこそなんなんだよ」
三人相手なのに、怯む様子は全くない。
むしろ彼の登場に、男の子たちの方が動揺していた。
「文句あるのかよ!」
「当たり前だろ。言っとくが、ここで揉めたらお前らが悪者になるぞ。こんなところで問題起こすか?」
「くっ……」
男の子たちも、騒ぎを起こそうとは思わなかったみたい。チッと大きく舌打ちをすると、三人まとめて去っていった。
その姿が見えなくなったところで、急に体から力が抜ける。
「こ、怖かった……」
「おい、大丈夫か!」
「な、なんとか。けど、ちょっとだけ休んでいい?」
とりあえず、近くにあったベンチに座り込む。
すると吉野くんが、横にあった自動販売機でジュースを買って渡してきた。
「とりあえず、これ飲んで落ち着け」
「う、うん。あっ、お金──」
「いいから、さっさと飲んどけ」
「うん。ありがとう」
凄く怖くてびっくりしたけど、吉野くんのおかげで助かった。
それに守ってくれて、すごくホッとした。
だからかな。ジュースを飲み終わる頃には、だいぶ落ち着くことができたんだ。
「はぐれてごめんね」
「そんなのお互い様だろ。悪かったな」
「そんな。吉野くんが謝ることなんてないじゃない」
「じゃあ、お前も謝るの禁止な」
ボソッとそう言われたけど、それがすごく暖かく感じた。
「もう少し休むか?」
「ううん、もう大丈夫。ほら、この通り。それより、そろそろお姉ちゃんたちと合流しないと」
勢いよくベンチから立ち上がって、平気だってアピールする。
ずいぶん時間が過ぎたから、いい加減行かないとまずいかも。
「そうだな。今度ははぐれないように気をつけるぞ」
「そうだね」
たった今あんなことがあったばかりだし、本当に気をつけた方がよさそう。
そう思ったんだけど……
「ほら」
「えっ?」
よ、吉野くん。私の手をとってるんだけど!
声をあげると、吉野くんは最初はキョトンとしていて、それからハッとしたように手を離した。
「あっ、悪い。はぐれないようにって思ってたら、つい」
「ついって……」
「仕方ないだろ。日向にそう言う時は、いつも手を繋いでるんだから」
ああ。こんなところも、基準は日向ちゃんなんだ。
なんていうか、すっごく吉野くんらしい。
「私は、日向ちゃんじゃないけどね」
「わかってるよ。さっき怖い目にあったばかりなのにまた手を掴んで、嫌じゃなかったか?」
「い、嫌じゃないよ!」
そこを気にしてたんだ。
急に手を握られたのは、驚いたし恥ずかしかったよ。
けど、嫌かってことは絶対にないから!
「吉野くん、私のためにやってくれたんでしょ。日向ちゃんにやってるみたいに」
「そりゃそうだけど……」
「だ、だから、全然平気だよ。ほら!」
さっき離した手を、今度は私から握る。
嫌じゃないってこと、ちゃんと伝えたかった。
「む、むしろ気遣ってくれてありがとうだから!」
「いや、ありがとうって言われることなのか、これ?」
「えっと……どうだろう?」
もう、自分でも何が何だかわかんなくなってる。
「と、とにかく、はぐれないよう気をつけるぞ」
「そ、そうだね。それに、早くお姉ちゃんたちのところにいかなきゃ」
こうして私たちは合流場所に向かうけど、その間も、繋いだ手はそのままだったんだ。
今日一日、ワクワクしたことも怖いことも、たくさんあった。
だけどそのどれよりも、吉野くんと手を繋いでる今が、一番ドキドキしている気がした。