「えっと……それじゃあ、どこ行こうか?」
そう尋ねる坂部の声は、緊張しているように聞こえた。
そりゃそうだ。いきなり俺と一緒に遊園地を回るなんて、戸惑うのも当然だ。
そもそも俺は、今日は一日ずっと日向の保護者でいるつもりだったから、自分がどこに行きたいかなんて、考えてなかった。
なのにこうして坂部と二人で回ってるのは、坂部の姉さんにこう言われたからだ。
『お願い、知世を遊ばせてあげてくれない? 巧の面倒を見てもらってるお礼がしたくて連れてきたのに、こんな時まで構いっぱなしなんだもん。姉としては、たまには妹に羽を伸ばしてほしいのよ』
そんなこと言われたら、連れ出さないわけにはいかないだろ。
「俺、どこに何があるのかよく知らないんだよな。坂部は、行くならどこがいい?」
「私が選んでいいの?」
「ああ。行ってみたい場所ないか?」
特に行きたい場所がない俺が選ぶより、坂部に任せた方がいいだろう。
それから、坂部が言った場所へと歩き出そうとするが、そこで坂部は、俺にパンフレットを渡してきた。
「じゃあ、その次は吉野くんが行きたい場所に行くから、選んでおいてね」
「全部坂部の好きなところに行っていいんだぞ」
「そんなの悪いよ。吉野くんだって、ちゃんと行ってみたいところ見つけてよね」
「わかった。考えておくよ」
そうして、今度こそ歩き出す。
けど俺と坂部が一緒に楽しむには、ひとつ大きな問題があった。
俺たちの間には、会話がないんだ。
「待ち時間、けっこうあるみたいだね」
「ああ」
「吉野くんは、並ぶの平気?」
「ああ」
ジェットコースターの列に並びこの会話をしたのが、今から少し前。
俺はただ相槌を打ってただけだし、それからはお互い沈黙してる。
けどそれも当然だ。
日向とたっくんのことを除けば、俺たちの接点はほぼゼロ。
話をしようにも、どんな話題を出せばいいのかわからない。
けどこのまま黙ってたら、絶対気まずいよな。
そんな風に困っていると、俺より先に坂部が口を開いた。
「日向ちゃん、喜んでてよかったね」
「あ、ああ。そうだな」
やっぱり、俺たちが話せることと言ったらそれしかないか。
こんな時くらい、別の話題を出せたらとも思ったが、何も無いよりはずっといい。
「坂部の姉さんには、後でもう一度礼を言っておかないとな」
「お姉ちゃんは、そんなのいいって言うと思うよ」
「それでもだ。連れてきてもらっただけじゃな。今だって、日向の面倒見てもらってるだろ。それに日向のやつ、めちゃめちゃ甘えてたじゃないか」
甘えすぎて、今頃迷惑をかけてないか心配になるくらいだ。
いい子でいるって約束、ちゃんと守るんだそ。
「日向のやつ、元々女の人に懐くことが多いんだよな。母さんがいないこと、どこかで寂しいって思ってるのかもな」
「お母さん? いないって、どういうこと?」
何気なく言った俺の言葉に、首を傾げる坂部。
あっ、しまった。
そうだよな。今の言い方じゃ、そう思うか。
「俺の母さん、亡くなってるんだ。日向が生まれた、少し後に」
「えっ……ご、ごめん」
とたんに申し訳なさそうにする坂部。
茶化せるような話じゃないし、こうなるのも無理ないか。
けど、坂部が謝る必要なんてない。
「俺の方こそ、変なこと言って悪かったな。けど何年も前の話だし、引きずってるってこともないからな」
「そ、そう?」
「ああ。だから、お前が気にするようなことじゃない」
そう言って、話を終わらせようとする。
これ以上続けても、坂部も困るだけ。そう思っていた。
けれど、そこで坂部が声をあげる。
「で、でもさ……日向ちゃん。お母さんがいないの、寂しいかもしれないけど、その分吉野くんが、たくさん日向ちゃんのこと大事にしてるでしょ」
「まあな……」
「私もね、小さい頃は、お姉ちゃんに面倒見てもらうことが多かったの。たくさん甘えたし、一緒に遊ぶの、凄く楽しくてかったんだ。えっと、だから……多分、日向ちゃんだってそうじゃないかな。」
たどたどしい感じで、それでも言い続ける坂部。
その一生懸命な様子がおかしくて、つい笑ってしまった。
「ぷっ…………お前、必死すぎ」
「だ、だって……」
「ありがとうな」
日向がどう思っているかなんて、本当のところはわからない。
だけど、そんな風に言ってくれるのは嬉しかった。
「そうだといいな」
「きっとそうだよ。お姉ちゃんにたくさん甘えた、妹としての意見」
「そいつは心強いな」
そうこうしているうちに、ジェットコースターの順番がやってくる。
なんて話せばいいかわからなくて心配だったけど、俺や日向や母さんのこと、そんな風に言ってくれたのは、なんだか嬉しかった。
そう尋ねる坂部の声は、緊張しているように聞こえた。
そりゃそうだ。いきなり俺と一緒に遊園地を回るなんて、戸惑うのも当然だ。
そもそも俺は、今日は一日ずっと日向の保護者でいるつもりだったから、自分がどこに行きたいかなんて、考えてなかった。
なのにこうして坂部と二人で回ってるのは、坂部の姉さんにこう言われたからだ。
『お願い、知世を遊ばせてあげてくれない? 巧の面倒を見てもらってるお礼がしたくて連れてきたのに、こんな時まで構いっぱなしなんだもん。姉としては、たまには妹に羽を伸ばしてほしいのよ』
そんなこと言われたら、連れ出さないわけにはいかないだろ。
「俺、どこに何があるのかよく知らないんだよな。坂部は、行くならどこがいい?」
「私が選んでいいの?」
「ああ。行ってみたい場所ないか?」
特に行きたい場所がない俺が選ぶより、坂部に任せた方がいいだろう。
それから、坂部が言った場所へと歩き出そうとするが、そこで坂部は、俺にパンフレットを渡してきた。
「じゃあ、その次は吉野くんが行きたい場所に行くから、選んでおいてね」
「全部坂部の好きなところに行っていいんだぞ」
「そんなの悪いよ。吉野くんだって、ちゃんと行ってみたいところ見つけてよね」
「わかった。考えておくよ」
そうして、今度こそ歩き出す。
けど俺と坂部が一緒に楽しむには、ひとつ大きな問題があった。
俺たちの間には、会話がないんだ。
「待ち時間、けっこうあるみたいだね」
「ああ」
「吉野くんは、並ぶの平気?」
「ああ」
ジェットコースターの列に並びこの会話をしたのが、今から少し前。
俺はただ相槌を打ってただけだし、それからはお互い沈黙してる。
けどそれも当然だ。
日向とたっくんのことを除けば、俺たちの接点はほぼゼロ。
話をしようにも、どんな話題を出せばいいのかわからない。
けどこのまま黙ってたら、絶対気まずいよな。
そんな風に困っていると、俺より先に坂部が口を開いた。
「日向ちゃん、喜んでてよかったね」
「あ、ああ。そうだな」
やっぱり、俺たちが話せることと言ったらそれしかないか。
こんな時くらい、別の話題を出せたらとも思ったが、何も無いよりはずっといい。
「坂部の姉さんには、後でもう一度礼を言っておかないとな」
「お姉ちゃんは、そんなのいいって言うと思うよ」
「それでもだ。連れてきてもらっただけじゃな。今だって、日向の面倒見てもらってるだろ。それに日向のやつ、めちゃめちゃ甘えてたじゃないか」
甘えすぎて、今頃迷惑をかけてないか心配になるくらいだ。
いい子でいるって約束、ちゃんと守るんだそ。
「日向のやつ、元々女の人に懐くことが多いんだよな。母さんがいないこと、どこかで寂しいって思ってるのかもな」
「お母さん? いないって、どういうこと?」
何気なく言った俺の言葉に、首を傾げる坂部。
あっ、しまった。
そうだよな。今の言い方じゃ、そう思うか。
「俺の母さん、亡くなってるんだ。日向が生まれた、少し後に」
「えっ……ご、ごめん」
とたんに申し訳なさそうにする坂部。
茶化せるような話じゃないし、こうなるのも無理ないか。
けど、坂部が謝る必要なんてない。
「俺の方こそ、変なこと言って悪かったな。けど何年も前の話だし、引きずってるってこともないからな」
「そ、そう?」
「ああ。だから、お前が気にするようなことじゃない」
そう言って、話を終わらせようとする。
これ以上続けても、坂部も困るだけ。そう思っていた。
けれど、そこで坂部が声をあげる。
「で、でもさ……日向ちゃん。お母さんがいないの、寂しいかもしれないけど、その分吉野くんが、たくさん日向ちゃんのこと大事にしてるでしょ」
「まあな……」
「私もね、小さい頃は、お姉ちゃんに面倒見てもらうことが多かったの。たくさん甘えたし、一緒に遊ぶの、凄く楽しくてかったんだ。えっと、だから……多分、日向ちゃんだってそうじゃないかな。」
たどたどしい感じで、それでも言い続ける坂部。
その一生懸命な様子がおかしくて、つい笑ってしまった。
「ぷっ…………お前、必死すぎ」
「だ、だって……」
「ありがとうな」
日向がどう思っているかなんて、本当のところはわからない。
だけど、そんな風に言ってくれるのは嬉しかった。
「そうだといいな」
「きっとそうだよ。お姉ちゃんにたくさん甘えた、妹としての意見」
「そいつは心強いな」
そうこうしているうちに、ジェットコースターの順番がやってくる。
なんて話せばいいかわからなくて心配だったけど、俺や日向や母さんのこと、そんな風に言ってくれたのは、なんだか嬉しかった。


