「そんな事…お義父様にはいつも良くしてもらってますし…それに、私…結婚式とか…しなくても…。」
手紙にも書いてあったな…と司は思う。
「結婚式は俺がやりたいんだ。俺の為だと思って欲しい。」
「司さんの、為ですか?」
「一応、跡取り息子だし、取引先や仕事関係だってある。それに何より俺が莉子の花嫁姿を観たいと切望している。」
そんな事を言われるなんて思ってもいなかったから、莉子は戸惑う。
「あの…それならばお望み通りで…。」
気の利いた言葉も見つからず、微妙な返事になってしまう。
「イギリスから帰ったら、日にち決めて、ちゃんとしよう。」
不意に頬に口付けを落とされて、莉子は驚きビクッとしてしまう。司がその反応を見てフッと笑う。
なんだか最近の司は、莉子の反応を面白がっているようなところがあるからタチが悪い。好きあらばとドキドキさせられてしまうから、心臓に悪いと莉子は思ってしまう。
しかも決して嫌では無いから、なかなか慣れない自分がいけないんだろうとも思う。
「…はい、よろしく、お願いします。」
結婚式…
まさか自分にそんな幸せな事が起こるなんて、夢にも思っていなかったから、全然実感が湧いてこない。
司が後ろから、莉子を抱いたままコテンと横に倒れ込む。広いソファに2人で寝転ぶ形になって、莉子はどうしたんだろう?とそっと司を垣間見る。
目を閉じて、なんだかとても眠そうだ。
「俺ばかりが…はしゃいでるみたいだな。」
独り言みたいに司がそう呟くから、
「私もこの1週間、あまり寝れないくらいはしゃいでましたよ。…でも、いざこの船に乗り込んだら、豪華さに気後れしてしまって、なんだか夢の中のようで実感がなくて…。」
「そうか…じゃあ…明日には…きっと…一緒に…」
話しが途中でとぎれる…。
莉子はそっと司の様子を伺う。
寝ってしまったみたいで、しばらくすると規則正しい寝息が聞こえてくる。
「…お疲れ様です。」
莉子は小さくそう言って、司の腕の中しばらく一緒に横になる事にする。
莉子が退院してからの1週間、司は仕事が忙しくほぼ毎日、帰りが午前様だったから、怒涛の日々だったのだろう。
この、客室はそんな司へのお義父様からの、ご褒美なのかもしれないと莉子は思った。



