「柊弥たそ、本日もお疲れ様でございます!! 本日も尊き柊弥たそを拝顔できること、拙者…この上なく喜びを感じるでござる! 麗しきその姿…それはまるで、華の如く!!」


明くる日の放課後。

僕が姿を現すと、伊藤さんは当たり前のように土下座をした。



しかも、今日は網本さんも一緒みたい。
2人が並んで土下座をしている。


「……伊藤さん、こんにちは。網本さんは…今日どうしたの?」
「むむ。小生、ボランティア部に入るのだが、どうも木曜日は休みのようなんだ。それで今日は小夏殿と一緒にここへ来た次第である!」



……厄介な人は、1人だけで良いのだが。
2人はニタニタしながらハイタッチをしている。


「しかし、凛々子殿も隅に置けませんな。拙者と文芸部に入ると話しておりながら、如月たそを見つけると即そちらに寝返るでござるからな」
「クックックッ!! 友達より推し優先だせ。しかもこの如月たそが凄く優しい方でな。ボランティア部は当たりだったということを報告しておくぞ…」
「……」


そんな会話を聞いていて、率直に気になった。


「網本さん、ボランティア部でもこんな感じ?」
「…へ? ……いいや。小生、ボランティア部では眼鏡を掛けておるものでな。いわゆる、普通だぞ」
「そんなお淑やかな感じで、ボランティア部やっていけるの?」
「…小夏殿と比較しておるか?」


そう言いながら網本さんは眼鏡を掛けた。


「…私は寡黙になる訳では無いので。普通に笑うし、雑談もするし、他の人とも普通に会話できるから。特に問題無いのです。……小夏は、そうじゃないけれど」


口を尖らせている伊藤さん。
不満そうに網本さんの肩を叩く。


「凛々子殿〜。不必要なことは言わないで欲しいでござる」
「うん、だけど、文芸部に入るならさ、先生に知っといてもらった方が良いじゃない? 小夏のこと」
「拙者はそう思わないでござる〜!!!! 知らなくて良いこともあるでござるよ!!」


ジャンプをしながら網本さんの肩を叩き続けている。
…知っといた方が良いことって、何だろう。


「そう言えば、先生。先生の名前って何でしたっけ?」
「……名乗ったよね?」
「忘れました」


てへっと舌を出す網本さんの横で、伊藤さんは吠えるように声を上げた。

「先生じゃなくて、柊弥たそでござる!!!!」
「………」

また土下座をする伊藤さんを横目に、俺は部室へと入る。