あれから2ヶ月ほどが経った。
彼とはほぼ毎日会っていた。
約束はしていないのに、彼はいつも自分の来る前に
座って、待っていてくれた。

今日も、
窓際の席で話した。
彼もあまり喋らないので、話をしたと言うよりかは、過ごしただけなのかもしれない。
でも、それは一つの楽しみだった。唯一、安心できる場所になっていたのかもしれない。
彼の存在が、自分は一人じゃないということを証明してくれる気がした。

いつものカジュアルな服装とは違い、今日はなにかとスポーティーな格好だった。
纏う雰囲気も昨日までとは違っているのは勘違いかもしれない。
でも、カモミールの香りは、いつもと変わらなかった。

「ちょっとさ、来て欲しいところがあるんだけど」
彼は急に振り向いて、ゆっくりと言った。
「別に、いいですけど…」
自分を連れていきたい場所なんて、どこにあるだろうか。
いつも邪魔にされて、或いは軽蔑の眼差しを向けられる。
今までそうだったから余計、動揺してしまった。
荷物を持って行こうとしたら、置いていっていいと言われた。

連れて行かれたのは、カフェの一つ上の階の、
開店前の店が並んでいるフロアだった。
何をしたいのだろうか。
今日は休店日らしく、張り紙も貼っているから余計に
何をされるのかわからなかった。







壁に体を押し付けられる。
唇に何かが触れた。

唇と唇が触れ合って、口の中に何かが入ってくる。優しく舐められて、鳩尾の奥が熱くなる。
気持ちよかった。口だけで、こんなに気持ち良くなれるんだ、と初めて知った。
何が、どうなっているんだろう、と理解が追いつかない。
彼は、何も言わなかった。ただ、怖くないように、と背中を撫でてくれる。
口で感じる気持ち良さにまた苦しくなって、
彼の体を抱きしめた。