この前の春子叔母さんから振られた再婚話は、正直言って辛かった。もう他の人達の中では大輝がとっくに過去の存在になっているのかと思うと、無性に胸が苦しくなった。
普段通りに陽太を保育園の乳幼児用の保育室に預けた後、優香は職員室前の掲示板を眺めていた。育児に関わるお知らせなどを端から順に流し見していると、ふと一枚の掲示物で目を止める。
――ひとり親交流サークル?
シングルマザーやシングルファーザーを対象とした育児サークルの案内。保健センターが主催になっていて、開催日が近かったこともあり、少しばかり興味が湧いてくる。念の為にと、優香はスマホのカメラを向けてそのお知らせを画像に保存した。
交流サークルが開催されていたのは、妊娠中に母親教室で訪れたことがあるのと同じ建物だった。当時は長机とパイプ椅子が並んだ、ただの集会室のようだったが、子連れ参加が前提の今回の集まりでは机と椅子は隅に畳んで片付けられ、床の半分にマットが敷かれている。
「初めて参加させていただく、石橋です」
「では、お母さんはこちらの名札を付けていただいて、お子さんには背中とかの自分では剥がせない場所にシールを貼ってあげてくださいね」
初回参加者向けのお知らせの入った分厚い封筒と一緒に、親と子それぞれ用の名札を受け取ると、優香は保健師らしき女性の指示に従ってマットの上に腰を下ろした。託児室も用意されているらしく、隣の部屋からは陽太よりも大きな子供達のはしゃぐ声が聞こえてくる。
陽太を膝に乗せてユラユラと揺らしながら遊ばせていると、部屋の入り口で受付をしていた女性が参加者へと円になって座るように指示してくる。今日の参加者は優香を入れて五人。父親の参加は一人も無く、母親ばかりだ。他の参加者達で子供と一緒に待機しているのは一組だけ。ピンク色のふわふわしたベストを着せられた女の子の赤ちゃんを抱っこしたママ。他の人達は託児室に預かって貰っているみたいだから、少し大きい子達の親なのだろう。
「初めての方も居られますから、順番に簡単な自己紹介をしていただきましょうか。では、そちらの方からお願いして良いですか」
名前と子供の年齢など、他の育児サークルでもこんな感じで話し始めるんだろうなとは思ったが、今この場にいる参加者達はひとり親ばかり。シングルになった経緯まで話し始める人も何人かいた。
「子供が二歳になる前に、夫と離婚して」
「恋人と別れた後に妊娠が分かって。でも、子供はおろしたくなかったので一人で産みました。だから未婚の母です」
同じシングルマザーと言っても、人によって違う。ここに来れば同じ境遇の親子に出会え、気持ちを分かち合えるかもしれないと思っていたが、そうでもなさそうだ。彼女達は自分の意思で、自分で選んでシングルになっている。優香には選択肢なんて何も無かったのに……。自分で決めて、この場にいる訳じゃない。
普段通りに陽太を保育園の乳幼児用の保育室に預けた後、優香は職員室前の掲示板を眺めていた。育児に関わるお知らせなどを端から順に流し見していると、ふと一枚の掲示物で目を止める。
――ひとり親交流サークル?
シングルマザーやシングルファーザーを対象とした育児サークルの案内。保健センターが主催になっていて、開催日が近かったこともあり、少しばかり興味が湧いてくる。念の為にと、優香はスマホのカメラを向けてそのお知らせを画像に保存した。
交流サークルが開催されていたのは、妊娠中に母親教室で訪れたことがあるのと同じ建物だった。当時は長机とパイプ椅子が並んだ、ただの集会室のようだったが、子連れ参加が前提の今回の集まりでは机と椅子は隅に畳んで片付けられ、床の半分にマットが敷かれている。
「初めて参加させていただく、石橋です」
「では、お母さんはこちらの名札を付けていただいて、お子さんには背中とかの自分では剥がせない場所にシールを貼ってあげてくださいね」
初回参加者向けのお知らせの入った分厚い封筒と一緒に、親と子それぞれ用の名札を受け取ると、優香は保健師らしき女性の指示に従ってマットの上に腰を下ろした。託児室も用意されているらしく、隣の部屋からは陽太よりも大きな子供達のはしゃぐ声が聞こえてくる。
陽太を膝に乗せてユラユラと揺らしながら遊ばせていると、部屋の入り口で受付をしていた女性が参加者へと円になって座るように指示してくる。今日の参加者は優香を入れて五人。父親の参加は一人も無く、母親ばかりだ。他の参加者達で子供と一緒に待機しているのは一組だけ。ピンク色のふわふわしたベストを着せられた女の子の赤ちゃんを抱っこしたママ。他の人達は託児室に預かって貰っているみたいだから、少し大きい子達の親なのだろう。
「初めての方も居られますから、順番に簡単な自己紹介をしていただきましょうか。では、そちらの方からお願いして良いですか」
名前と子供の年齢など、他の育児サークルでもこんな感じで話し始めるんだろうなとは思ったが、今この場にいる参加者達はひとり親ばかり。シングルになった経緯まで話し始める人も何人かいた。
「子供が二歳になる前に、夫と離婚して」
「恋人と別れた後に妊娠が分かって。でも、子供はおろしたくなかったので一人で産みました。だから未婚の母です」
同じシングルマザーと言っても、人によって違う。ここに来れば同じ境遇の親子に出会え、気持ちを分かち合えるかもしれないと思っていたが、そうでもなさそうだ。彼女達は自分の意思で、自分で選んでシングルになっている。優香には選択肢なんて何も無かったのに……。自分で決めて、この場にいる訳じゃない。


