寝室のドアが強くノックされた。
 いつもよりも何倍も強く。
 すっかり目が覚めた。


 何かあったのだ。
 そうとしか思えない。
 隣にスチュワートの姿は無い。
 さっきまで彼が眠っていた傍らを掌で触れてみる。
 そこに誰かが居た気配は感じなかった。
 ……あれから、彼は戻っていない?



 緊張で口の中は渇いていたけれど、ミルドレッドは出来るだけ大きく、はっきりと返事をした。
 しっかりしなくっちゃ、スチュワートが居ないのなら。
 彼が居ないのなら、わたしがしっかりしなくては。
 そう自分に言い聞かせ、奮い立たせた。


「奥様、失礼致します」

 扉が開かれ入ってきたのは、侍女長のケイトと専属侍女のユリアナだった。
 
 寝室にミルドレッドしか居ない時、男性の使用人はこの部屋を訪れない。
 こんな時でさえ、それは守られていた。


「おはよう、どうしたの?
 騒がしいわね?」


 落ち着いて見えるよう、ミルドレッドは出来る限り平静な声を出した。


 そんなミルドレッドを見つめるケイトは唇を噛み、ユリアナは彼女からの視線を避けるかのように下を向いている。



「カールトン様からご連絡がありました。
 ……旦那様が……お亡くなりになったそうです」