すずらんを添えて 幸せを

「母さん、父さんが亡くなった頃、毎晩俺が寝た後に、写真を抱きしめて泣いてたんだろ?どうして私と尊を置いて行ったの?これからどうやって生きていけばいいの?って」

えっ…と、母さんが目を見開く。

「父さん、その姿が見えてたんだ。誰かが父さんに語りかける時だけ、父さんはその姿を見ることが出来る」

「…尊、あなた、何を言って…?」

「それだけじゃない。父さんが強く語りかける言葉は、母さんの心の中に浮かぶんだ。母さん、昔俺が『パパなしみこと!』ってからかわれた話を父さんにしただろう?その時、頭の中に言葉が浮かばなかった?」

「え、何、待って。なんの話?パパなしみことって、あなたが6才の時の?」

「そう。それを父さんの写真を見ながら話したでしょう?」

「うん。どうやって尊を励ませばいいの?って聞いたら、尊はパパなしじゃない!めちゃくちゃイケメンのかっこいいパパがいる!って頭の中に声がして…。だから私、自分でイケメンとか言っちゃって、バカじゃないの?って思わず笑っちゃって…。え、まさかその言葉って」

「ああ、父さんがそう言ったんだ」

うそ…と呟いた母さんは、目を見開いたまま大粒の涙をあふれさせる。

「うそでしょ?まさか、そんな」

俺がしっかり頷くと、母さんはチェストの上のフォトフレームを振り返った。

「あなた…、私に話を?」

「ああ、父さんはいつだって母さんに語りかけてた。それと俺、父さんから伝言を預かったんだ。母さんに伝えてくれって」

母さんはハッと俺に向き直る。

「言われたこと、そのまま伝えるよ?」

「う、うん」

俺は小さく息を吸った。