(みこと)ー!尊ってば。みーこーとー!」

大きな声で玄関の向こうに呼びかけながら、私は隣の杵野(きねの)家のインターフォンを、肘でピポピポーン!と連打する。

本当なら門扉を開けて、小さなポーチに面した尊の部屋の窓をガラッと開けてやりたいけれど、両手でシチューの鍋を持っている為、仕方なくこうして門の外で声をかけているという訳だ。

「尊!いるのは分かってるのよ。開けなさいってば!」

「あー、もう、うるさい!」

ガラリと自分の部屋の窓を開けた尊が、ボサボサ頭で顔を覗かせた。

「は?まさか、寝てたの?」

私は思わずポカンとする。
現在、時刻は18時半だ。
この時間に寝ているとは?
めちゃくちゃ早寝のおじいちゃん?

「玄関開いてんだから、いつもみたいに勝手に入って来ればいいだろ?」

ほとんど目を閉じたままそう言うと、尊はまたベッドに戻ろうとする。

「相変わらず不用心ね。そうしたいけど、手がふさがってるの!いいから、早く開けてよ」

仕方ないな…と呟いて、尊は部屋を出る。

しばらくすると、ようやくガチャッと玄関が開いて、Tシャツと短パン姿の尊が現れた。

背は高いし、普通にしていればまあまあかっこいいけれど、今は寝起きでひどい有様だ。

「お邪魔します!」

私はタタッとポーチの段差を上がり、玄関に入ると、後ろ向きに靴を脱いでキッチンへと向かう。

鍋をコンロに置いてようやく手が自由になると、尊を振り返った。