『よし』と小さくガッツポーズする彼の傍らで、大人組は見るからに意気消沈している。
『また息子に丸め込まれた……』と嘆き、肩を落とした。
────が、今は一刻を争う事態のため直ぐに気持ちを切り替える。

「リディア。今から転移魔法について、教える。心して聞け」

「はい」

 銀の杖をギュッと握り締め、私は力強く頷いた。
────と、ここで兄がメモ帳とペンを取り出し、何かを書き込み始める。
一瞬『何をしているのだろう?』と気になるものの、今は父の話に集中しないといけないため、直ぐに前を向いた。
と同時に、タンザナイトの瞳と目が合う。

「転移魔法の発動方法には、色々ある。行きたい場所を思い浮かべて転移するイマジネーション、人や物を目印にして転移するマーキング、現在位置から目的地までの距離を割り出して転移するキャルキュレイト」

 指を三本立てて説明する父は、人差し指と中指を順番に一回ずつ動かす。

「一つ目と二つ目は具体的なイメージを必要とされるため、実際に行ったことのある場所や会ったことのある人物じゃないと使えない。よって、今回は三つ目のキャルキュレイトを使う────ニクス、計算は終わったか?」

「はい」

 突然話を振られた兄は、『待ってました』と言わんばかりにメモ帳から顔を上げた。
自信ありげに笑う彼を前に、父は満足そうに頷く。

「じゃあ、ここから先の説明は頼む」

「分かりました」

 もう内容を暗記しているのか、兄はパタンとメモ帳を閉じてこちらに目を向けた。
かと思えば、素早く私の背後に回り、両肩を掴む。
そして右へ左へ体の向きを変え、位置を調整すると、顎をクイッと持ち上げた。