悲痛に染まったリエート卿の叫びを聞き、私は手に持った銀の杖へ視線を落とす。
ビッシリと刻まれた文章を見つめ、

「今、私に出来ること」

 を思いついた。
『ファンタジー小説によくあるやつだけど、ここにも存在するかな?』と考えつつ、私は顔を上げる。

「お父様、一つお聞きしたいことがあります」

「なんだ?」

 僅かに目を見開き、話に応じる父は突然のことにも拘わらず真摯に対応してくれる。
少なくとも、『今、取り込み中だから』と邪険にすることはなかった。
それに内心ホッとしつつ、私はタンザナイトの瞳をじっと見つめ返す。

「────遠く離れた地に一瞬で移動する魔法、もしくは魔術ってありますか?」

 微かな希望を抱いて質問すると、父は少しばかり眉を顰める。

「あるにはあるが……相性の問題で、私もニクスも使えない。それに消費魔力だって半端ないから、ホイホイ使えるものじゃ……」

「────やり方を教えてください」

「はっ?」

 思わずといった様子で素っ頓狂な声を上げる父に、私はこう述べた。

「私の持っているギフトの中に────万能属性というものがあります。これはどんな属性の魔法や魔術も使いこなせる能力です。なので、やり方さえ教えて頂ければ使用可能かと」

 魔力量に関しては問題がないため敢えて言及せず、私は『やり方を教えてください』と再度乞う。
珍しく呆然としている父に向き直り、表情を硬くした。