「一旦、冷静になれ。お前一人じゃ、どうにも出来ないだろ」

 『無駄な悪足掻きだ』と一蹴し、兄はギュッと拳を握り締めた。
どこか緊張した面持ちで前を見据える彼は、一瞬躊躇ってから口を開く。

「大体、今から向かっても……多分、間に合わない────手遅れだ」

「っ……!」

「クライン公爵家の面々は諦めた方がいい。もちろん、助けられるならそれに越したことはないが……その小さな希望に賭けて無茶をするより、我が家と連携してしっかり準備を整えてから向かった方が……」

「そんなの俺だって分かっている……!」

 『冷静に判断しろ』と諌める兄に、リエート卿は噛みつかんばかりの勢いで怒鳴り散らした。
泣いているのか、肩は少し震えており……彼のやるせない感情を表している。
どれだけ手を伸ばしても届かない位置に居る家族を想い、無力感に陥っているようだ。

「クライン公爵家の次男として、すべきことは単騎で戦地に乗り込むことじゃない……!それは分かっている……!分かっているけど……!俺は────家族を見捨てたくないんだ!お願いだから、離してくれ!」

 気の所為だろうか……『離してくれ!』と懇願する彼の声が────『助けてくれ!』と言っているように聞こえた。