比較的冷静とはいえ、かなり心配しているみたい。
お父様があんな風に黄昏れることなんて、ほとんどないから……。
クライン公爵家とは家族ぐるみの付き合いをしているため、当然と言えば当然だけど。

 『確か、現当主とは旧知の中なのよね』と執事から聞いた話を思い返し、私はそっと眉尻を下げる。
『何か自分に出来ることはないだろうか』と思い悩んでいると、不意にリエート卿が駆け出した。
真っ青な顔で出口へ向かっていく彼を前に、兄は『チッ……!』と舌打ちする。

「この筋肉バカめ……!走っていける距離じゃないだろ!」

 独り言のようにそう呟き、兄は手を前に突き出した。
と同時に、リエート卿の足元だけピンポイントに凍りつく。

「……離せ」

 身動きを取れなくなったリエート卿は、低く唸るような声で氷を溶かすよう言った。
────が、兄は微動だにしない。