本当は一人で行く筈だったんだけど、ほとんど外出経験のない私を心配してくれたみたい。
前世も含めて一人で外出したことはないため、これは非常に有り難かった。

 『やっぱり、ちょっと不安だったから』と考える中、公爵家の馬車は白い建物の前で停まる。
途端に私は大きな建物へ釘付けになり、思わず感嘆の声を漏らした。
だって、本当に凄く美しかったから。
公爵家のような華やかさはないものの、清潔で温かい印象を受ける。
きっと、毎日手入れされているからだろう。

「リディア、あれが中央神殿だ」

「首都に居る七歳の子供は身分問わず、ここで洗礼式を受けるのよ」

「ちなみにリエートの働いている場所でもある」

 『もしかしたら、どこかで会うかもしれないな』と述べ、兄は小さく肩を竦めた。
その瞬間────

「おっ?呼んだか?」

 ────と言って、リエート卿が馬車の小窓を叩く。
ガラス越しに『よっ!』と声を掛けてくる彼は、明るく笑った。