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 ────その後も様々な準備に追われ、時間はあっという間に過ぎていった。
こっちは主に指示を出したり何かを決めたりするだけなので、実際に現場で働いている人に比べたらまだマシだが、やはり疲れる。
主に精神的な意味で。
まあ、パーティーの大部分は家族に決めてもらったため、迷ったり悩んだりすることはあまりなかったが。
『本当に助かった』と思いつつ、私は無事当日を迎えられたことに安堵する。

 私一人だったら、ここまでスムーズに決められなかったわ。
手伝ってくれた公爵家の面々には、きちんと感謝しないと。

 控え室で仕立ててもらったドレスを身に纏い、開始時間を待つ私はこれまでの日々を振り返る。
────と、ここで部屋の扉をノックされた。

「中に入ってもいいか?」

「はい、どうぞ」

 聞き覚えのある声に返事し、扉の方へ目をやると、兄が姿を現す。
紺色のジャケットを着こなし、両手に黒のグローブを嵌める彼は珍しく前髪を上げていた。
しかも、銀色のブレスレットまで身につけている。
普段は勉強や鍛錬の邪魔になるからと、アクセサリー類を避けていたのに。