『とりあえず、今日はもう休もう』と思い立ち、部屋へ戻ろうとすると、母が顔を上げる。

「あら、どこに行くの?これから────アクセサリーを選ばなきゃいけないのに」

「えっ?」

 まだ予定があるなんて思ってなかった私は、素っ頓狂な声を上げて固まった。
『ファッション=洋服』というイメージで、アクセサリーはあまり身近じゃなかったため、呆気に取られる。
驚きのあまり何も言えずにいると、母は兄へ視線を移した。

「ニクスは隣の部屋で、自分の衣装を決めてきてちょうだい。もし、決められそうになかったら相談に乗るから」

「分かりました」

 コクリと頷いて立ち上がった兄は、『じゃあ、また後で』と言い残し、隣の部屋へ移る。
それと同時に、宝石商の支配人が顔を見せた。
『いつも、ご贔屓にして頂いてありがとうございます』と言って、ガラスの箱を持ってくる。

 何となく予想はしていたけど、やっぱり宝石か。

 色とりどりの宝石が並べられた箱を見て、私は『そりゃあ、貴族だものね』と一つ息を吐いた。