「何で僕のこと、怒らないんだよ……?魔力暴走を引き起こしてさんざん迷惑を掛けた挙句、お前の存在を拒絶したのに……」

 『暴言だって、たくさん吐いて……』と述べる小公爵は、両手を組んでギュッと握り締める。
全く責められない状況が理解出来ず、戸惑いを覚えているようだ。
『何なんだ、お前は……』と困惑する彼を前に、私は苦笑を漏らす。

「私はただ、人を責めるのが苦手なだけです」

 ────怒って険悪になったまま……誰かを恨んだまま死にたくないから。

 という言葉を呑み込み、私はニッコリ微笑む。
まだ山下朱里として生きていた時、私は常に死ぬ決意を固めていた。
もちろん、生きることを諦めていた訳ではない。
生きる希望が少しでもあるなら、その可能性に縋りたいし、賭けたいと思っている。
でも、人より死を身近に感じているせいか、やっぱり考えてしまうのだ────命の灯火が消えてしまったら、どうしよう?と。

 死んだ時、願うのはやはり両親や友人の幸せでありたい。
『あいつがもっと苦しめばいいのに』と、他人を呪うようなことだけは嫌。
綺麗事かもしれないけど、色んな人に助けられて生きてきたから、負の感情に塗れた後悔や願いは残したくなかった。