「貴方は……リディアは私達の子供よ!誰がなんと言おうと、それは変わらないわ!だから、そんな……悲しいことを言わないで!」

 私の頬を包み込む手に力を込め、公爵夫人は目にいっぱいの涙を溜めた。
と同時に、そっと目を伏せる。

「あぁ、でも違うわね……そんなことを言わせてしまったのは、きっと私達のせい。しっかり貴方と向き合おうとせず、ずっと逃げてきたから……」

 グッと唇を噛み締めて後悔する公爵夫人に、公爵はピクッと反応を示した。
かと思えば、半ば項垂れるようにして首を縦に振る。

「そう、だな……仕事なんて一日くらい休んでも問題なかったのに、家庭から遠ざかって……全てを見ないフリしてきた」

 『ずるい大人のやり口だ』と自嘲し、公爵は目頭を押さえた。
涙を堪えるように。

「……どうすればいいのか、分からなかったんだ。ルーナ以外の女が生んだ子を私だけは拒絶しないといけない、と思っていたから……受け入れてしまうのが、怖かった」

 不意打ちのような形だったとはいえ、浮気したのは事実なので率先してリディアの話を出来なかったのだろう。
最悪、藪蛇になる可能性があるため。
『尻込みする気持ちも分かる』と納得する中、公爵はゆっくりと立ち上がった。