「良かった……本当に……良かった……」

「……心臓が止まるかと思ったぞ」

 涙ぐむ公爵夫人と脱力する公爵に、私は苦笑を漏らす。
が、騒ぎを引き起こした当の本人である小公爵はとても気まずそうだ。

「あの、僕……」

「とりあえず、中に入りましょう。二人とも、体が冷えているでしょうし」

 『早く暖めなきゃ』と言い、公爵夫人は私の体を支えて歩き出した。
公爵も息子の肩をそっと抱いて、後を追い掛けてくる。

 助かった……手が悴んで、ちょっと辛かったから。
正直、このまま話し合いに突入していたら寒さで倒れていたかも。

 などと考えながら、私は屋敷の中へ足を踏み入れる。
と同時に、隣を歩く公爵夫人を見上げた。

 それにしても、公爵夫人は辛くないのかしら……?
だって、小公爵の話が正しければ────リディア()は夫人の実子じゃないのでしょう?
詳しい事情は分からないけど、妾の子を傍に置くなんてかなりのストレスの筈。
それなのに、凄く気遣ってくれて……お見舞いも許可してくれたし。