お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない

 恐怖のあまり体が竦む僕を他所に、メイドは父の胸にしなだれ掛かる。

「公爵様、私を側室にしてください。そしたら……」

「黙れ」

 氷のように冷たい声で吐き捨て、父は極自然に……そうなるのが当たり前かのようにメイドの肩を突き飛ばした。
すると、彼女は『きゃっ……!』と短い悲鳴を上げて床に尻餅をつく。

「こ、公爵様……?一体、何を……?」

 ここに来てようやく父の怒りを感じ取ったのか、メイドは表情を引き攣らせた。
怯えたように体を震わせ、腕に抱いた赤子を取り落とす。
その瞬間、『うぁぁぁああああ!!』という赤子の泣き声が、静まり返った空間に響き渡った。
ハッとしたように顔を上げる母の前で、父は腰に差した剣を引き抜く。

「ルーナとニクスを傷つける存在など、この世に不要だ」

 そう言って、父は────メイドの首を刎ねた。
シャッと飛び散る鮮血と共に、首は落ち……胴体は後ろに倒れる。
あまりにも呆気ない最期を迎えたメイドに釘告げになっていると、父の刃は赤子へ向かう。
────と、ここで母が立ち上がった。
乱れた髪や服をそのままに赤子の元へ駆け寄り、父から庇う。