どこかで聞き齧った情報を思い浮かべ、私はニッコリと微笑む。
その瞬間、学園長は慌てて立ち上がった。
膝辺りまである白髪を手で払い、こちらへ駆け寄ってくる。
灰色のローブをまるでドレスのように摘みながら。
多分、走るのに邪魔だったんだと思う。

「お、お待ちください!軟禁と言っても、不便はありませんよ!?きちんと衣食住は用意しますし、娯楽品や趣向品だって……あっ」

 公爵令嬢を物や待遇で釣るのは無理があると気づいたのか、目頭を押さえる。
『そうだった、この人金持ちだった……』とでも言うように肩を落とし、学園長は苦悶した。
元々シワシワだったお顔に更なるシワが追加され、三歳は老けたように見える。

「あ、アガレス様の生贄になるのは大変名誉なことで……」

「あら、そうですの?でしたら、みんな平等にチャンスを与えるべきですわ。私だけ、なんだかズルをしたみたいじゃないですか」

「……」

 『独り占めはいけない』と進言する私に、学園長は何とも言えない表情を浮かべた。
『やりにくい』と項垂れ、嘆息する彼は天井を見上げる。
と同時に、表情を引き締めた。