『まさか、あれは罠だったのか?』と戦慄する父の前で、メイドは赤子に頬擦りした。

「泥酔して、ぐっすり眠っている公爵様を襲うのは至極簡単でした。まあ、寝室に潜り込むのは少々手間取りましたが……でも、私はルーナ様に信用されているメイドなので。『奥様にこう指示された』『奥様に呼ばれている』と言えば、皆さん快く応じてくださいましたよ」

 『思ったより、すんなり事が運びました』とはしゃぎ、メイドは母の横を通り過ぎる。
勝ち誇った笑みを浮かべながら。

「まあ、あの日の出来事を隠したまま数ヶ月間過ごさなければならないのは堪えましたが……本当はもっと早く暴露して、貴方の目に留まりたかったので。でも、赤ちゃんが居ないと相手にして貰えないと思って……ほら、待望の女の子ですよ?そのうち、娘を作りたいなって仰っていましたよね?」

 キラキラと目を輝かせ、軽い足取りで父に駆け寄るメイドは乙女のような顔をしていた。
その後ろで、母が崩れ落ちていることなど知らずに。