「じゃあ、少しだけ我慢しててね」

 そう言うが早いか、レーヴェン殿下は私の手の甲に────口付けた。
ハッと息を呑む周囲の人々を他所に、魔力を注ぎ込む。
やがて適量に達したのか魔力の流れを止めると、軽くリップ音を立てて手から離れた。
その瞬間、兄とリエート卿が物凄い速さで私を掻っ攫っていく。

「な、何をなさるんですか!?魔力注入はキスしなくても、出来るでしょう!?」

「そうですよ!いきなり、手の甲にチューなんてマナー違反です!」

 レーヴェン殿下にキスされた方の手を掴み、リエート卿は抗議した。
かと思えば、制服の袖でゴシゴシと手の甲を拭う。
『後でしっかり洗わねぇーと』と焦る彼を前に、兄は

「いや、デビュタントで同じことをやったお前が言うな!」

 と、怒鳴りつけた。