「悪い。ちょっと冷静さを失っていた。さっきの発言は忘れてくれ」

 そう言って頭を下げる兄は、もうすっかり吹っ切れた様子だった。
『僕の妹を囮に使うんだ、絶対成功させるぞ』と意気込み、前を向いている。
月の瞳に強い意志を宿す彼の前で、ルーシーさんはホッとしたように表情を和らげた。

「では、当初の予定通りレーヴェン殿下は引き続きターゲットの監視を。一応、リディアにもマーキングしておいて、いざという時居場所を突き止められるようにしておいてください」

「分かった」

 すんなり首を縦に振るレーヴェン殿下は、こちらに向き直りそっと手を差し出す。
『ちょっといいかな?』とお伺いを立ててくる彼に、私はコクリと頷いた。
と同時に、手を重ねじっと待つ。