父上も母上も仕事や社交活動で忙しいから、共に過ごせる時間は少ない。
でも……いや、だからこそこの時間がとても愛おしく感じる。

 別に特別な料理を頂いている訳でも、珍しい話題を口にしている訳でもないが、なんてことない日常が何より楽しかった。
『毎日、とても充実している』と実感する中、僕は手を引かれるまま空いている席へ座る。
そして、母の勧めるケーキと父の淹れた紅茶を頂いた。
『こんな日々がずっと続くといいな』と思いながら。
────まあ、現実はそう甘くない訳だが……。

 僕達家族を壊した発端となる出来事は、ある日の食事中に起きた。
いつものように食堂で両親と顔を合わせていると、一人の女性が入ってくる。
────おくるみに(くる)まれた赤子を抱えて。

 あれは確か、母上が可愛がっているメイドだよな?
最近見かけないと思ったら、赤子を産んでいたのか。

 クルンと毛先が丸まった紫髪を持つメイドに、僕は『赤子を見せに来たのか?』と首を傾げる。
それにしては、ちょっと様子が変だが……。