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 僕は────リディア・ルース・グレンジャーのことが嫌いだ。
僕の家族を壊した原因だから。
こいつさえ現れなければ、僕はまだ幸せのままだったんだ。

 リディアが生まれる前、グレンジャー公爵家は皆の笑顔で溢れていた。
優しく包容力のある母と、厳しいながらも愛情深い父。
そんな二人を献身的に支える使用人達。
まさに絵に描いたような幸せ風景。

「父上、母上!僕、また満点を取りました!」

 歴史学のテストを持ってティータイム中の両親に駆け寄り、僕は誇らしげに胸を張る。
そうすると、二人は必ず

「あら、凄いじゃない!」

「さすが、私達の子供だな」

 と、褒めてくれた。
目を輝かせニコニコ笑う母と満足そうに頷く父を前に、僕は充実感と達成感でいっぱいになる。
使用人達の反応も講師達の評価も嬉しいが、やはり両親の言葉が一番嬉しかった。

「ニクスも、こちらへいらっしゃい」

「お茶にしよう」

 当然のように同席を許す両親は、嫌な顔一つせずこちらへ手を伸ばす。
『おいで』と歓迎してくれる二人に頷き、僕は差し出された手をギュッと握った。
久々の家族水入らずが嬉しくて、ついつい頬を緩めてしまう。