そういえば、どうしてリエートはさっきから喋らないんだろう?
ゲームの彼は無口だったから、あまり気にしてなかったけど────よく考えたら、おかしいよね。
実際のリエートは、凄くお喋りなんだから……。
じゃあ、今目の前に居るのは────。

 恐ろしい考えが脳裏を過ぎり、私は悩むよりも先に踵を返した。
これは自分の望んだ展開だというのに。

 おかしい……おかしい!こんなの知らない!
確かにリディアの介入で、シナリオ通りにはいかないかもって思っていたけど……!でも!何でこんな……怖い!

 半分パニックになりながら、私は急いで来た道を引き返す。
所詮、私は単なる一般人に過ぎず……ヒロインのように立ち向かう度胸も、勇気もない。
しっぽを巻いて逃げ回る弱者でしかないのだ。

 ねぇ、攻略対象者達は……!?
そろそろ、助けに来てもいい筈でしょ……!?
なのに、何で来ないの……!?
まさか、私がシナリオと違う行動を取ったから……!?
じゃあ────私はどうなるの!?このまま、誘拐される訳じゃないよね!?

「そんなの絶対に嫌……!リエート、ニクス、レーヴェン!助けて……!」

 本気で身の危険を感じ、私はひたすら叫んだ。
────が、返事はない。
あるのは、後ろから迫ってくるリエートの偽物の気配と足音だけ。