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 ────時は少し遡り、ニクスと別れたばかりの頃。
私はリエートに連れられるまま、山の麓を離れていた。

 おかしいな……本来のシナリオに、こんな展開はない筈だけど。
あっ、もしかして────お人好しのリディアに折られまくった恋愛フラグを補填(回収)するため、世界が動いた!?
だとしたら、しっかりしないと!このチャンスを無駄にしてはいけない!

 『リエートの好感度を爆上げしてやる!』と奮起し、私は軽やかな足取りで前へ進んでいく。
『誘拐未遂事件の方は時間的にまだ余裕あるし、大丈夫でしょ』と楽観的に考えながら、頬を緩めた。
やっときた乙女ゲームらしい展開に、浮き立っているのかもしれない。
今までリディアに潰されまくっていた分、余計に。
『やっぱり、この世界はヒロイン()を中心に回っているのよ!』と思いつつ、口を開く。

「あの、リエート……様、私────」

 ────貴方のことが前から、気になっていたんです。

 と続ける筈だった言葉は、奥に停められた荷馬車を見て(つか)えた。
だって────あれは間違いなく、ヒロインを誘拐するときに使用されたものだから。
一瞬見間違いか何かかと思ったが、御者の格好まで完全一致なんて……そうそうない筈。