「はっ?何でリエートが一緒に居るんだ……?」

「はっ?『何で』って、そりゃあ……俺が連れてきたんだから、当たり前だろ。つーか、お前こそルーシーをどこへやったんだ?」

 『まさか、置いてきたのか?』と怒りを露わにするリエート卿に、兄は首を傾げた。
『意味が分からない』とでも言うように。

「何を言っているんだ?特待生なら、さっきお前が連れて帰って……」

「いや、俺はずっとここに居たけど」

 『お前のところになんて行ってない』と主張し、リエート卿は腕を組む。
本気で何のことか分からず混乱する彼に対し、兄は焦りを見せた。

「おい、待て。悪い冗談は……」

「冗談ではありません。リエート卿なら、ずっと私の傍に居ました」

「あぁ、私も証言しよう」

 リエート卿の発言を私とレーヴェン殿下が擁護すると、兄は目を真ん丸にした。
かと思えば、乱暴に前髪を掻き上げる。

「なっ……!?じゃあ、さっきのリエートは一体……まさか、偽物!?じゃあ、特待生は────」

 そこで一度言葉を切り、兄はサァーッと青ざめた。
最悪の事態を想定してたじろぐ彼は、勢いよく後ろを振り返る。
────が、当然そこにルーシーさんは居ない。

 嗚呼、ついに始まってしまったのね……ゲームのシナリオが。

 この中で私だけが知っている事実を思い浮かべ、不安でいっぱいになった。
ルーシーさんは無事なんだろうか?と。
ゲームや漫画であればハラハラドキドキはありつつも、ヒロインの無事を確信していただろうが……これは現実。
やはり、心配は絶えない。
『ヒロインだから、大丈夫』なんて思えず悶々としていると、兄がやっとの思いで言葉を紡ぐ。

「────誘拐(攫われた)……?」