「いい?よく聞いて。私はこの世界────『貴方と運命の恋を』のヒロインなの!」

 自身の胸元に手を添え、ルーシーさんは堂々と宣言した。
────が、やはりちょっと恥ずかしいのか頬は赤く染まっている。
『自分でヒロインを呼称するのは照れ臭いものね』と共感を示す中、彼女はビシッとこちらを指さした。

「だから、もう邪魔しないで!悪役令嬢モノの流れを期待しているんでしょうけど、そんなの絶対に許さないから!」

 半ばヤケクソになりながら叫ぶルーシーさんは、『シナリオ改変ダメ絶対!』と主張した。
桜色の瞳に強い意志を宿す彼女に対し、私は困ったような表情を見せる。

「えっと……よく分かりませんが、とりあえず私は何をすれば?」

「悪役になりきってくれれば、それでいい!少なくとも、これまでのような真似はしないで!」

「これまで……?」

 『私、何かしたかしら?』と首を傾げ、ここ最近の記憶を溯る。
でも、全くと言っていいほど心当たりがない。