「分かりました。リエート卿の提案を受け入れます。なので────」

 そこで一度言葉を切ると、私は繋いだ手をギュッと握り締める。

「────リエート卿のことは、私に守らせてください」

 アニメによくある『背中は預けた!』という展開を思い浮かべながら、私はそう言った。
『これでウィンウィンの関係だわ』とご満悦の私に対し、リエート卿はポカンとしている。
上手く状況を呑み込めないのかパチパチと瞬きを繰り返し、放心していた。
かと思えば、プッと勢いよく吹き出す。

「あはははっ!ったく、リディアには敵わねぇーなぁ!」

 『そうくるか!』と大笑いしながら、リエート卿は足を止めた。
どうやら、演奏が終わったらしい。
つられて立ち止まる私を前に、彼はニッと笑ってみせた。

「じゃあ、俺の背中はリディアに預ける。こう見えて結構無防備だから大変だと思うけど、よろしくな」

 『しっかり面倒見てくれよ』と言い、リエート卿は繋いだ手をそっと持ち上げた。
かと思えば────私の手の甲に口付ける。
私はその光景をただ呆然と眺めることしか、出来なかった。

 えっ?キス?何で?どういうこと?

 困惑のあまり思考が追いつかず、私はまじまじと手の甲を見つめる。
そして、ようやく事態を呑み込めた時────兄の鉄拳制裁がリエート卿を襲った。
『お前、よくも!』と怒る兄を前に、私は慌てて仲裁に入る。
そのため、少女漫画のようなトキメキを感じる暇も頬を赤く染める余裕もなかった。