『急いでお兄様のところへ戻らないと』と思いながら、歩を進めていると────

「またどこかで会おう。私はもっと君のことを知りたい」

 ────不意にレーヴェン殿下から、声を掛けられた。
慌てて後ろを振り返るものの、そこにもう彼の姿はなく……キョロキョロと辺りを見回す。
でも、人混みのせいで捜索は困難だった。

 しょうがない。レーヴェン殿下のことは、後回しにしよう。
このままだと、迷子になってしまいそうだし。

 『無理しちゃダメ』と自分に言い聞かせ、私は兄の元へ向かった。
人にぶつからないよう気をつけながら前へ進むと、ようやく目当ての人物に巡り会える。

「お待たせしました」

「ああ」

 笑顔で挨拶する私に、兄は少しばかり気を良くした。
眉間の皺こそ取れないものの、先程のように殺気立った様子はない。

「リエート卿はどちらに?」

「あっちだ。多分、肉でも食べているんだろう」

 料理が置いている方向を指さし、兄は小さく肩を竦めた。

「まあ、リエートのことは放っておこう。そのうち、戻ってくる筈だ。それより、ほら」

 スッとこちらに手を差し出し、兄はようやく表情を和らげる。

「さっさと行くぞ。約束通り、三曲以上は踊ってもらうからな」

 『ファーストダンスを譲った補填をしろ』と述べる兄に、私はコクリと頷いた。
単純に約束だからというのもあるが、兄と踊るのは凄く楽しいから。
何より、緊張せず気楽で居られた。