『誕生日パーティーのときは空腹のせいで地味に辛かったのよね』と思い返し、果実水を飲む。
そして、『ふぅ……』と一息ついたところで────オーケストラによる演奏が始まった。
『そろそろ時間かしら?』と考える中、突然周囲がざわめく。

「リディア・ルース・グレンジャー公爵令嬢、私と一曲踊って頂けませんか?」

 人混みを掻き分け、私の前に現れたレーヴェン殿下はそっと手を差し出した。
アメジストの瞳を細めて笑う彼の前で、兄は不機嫌になる。
リエート卿も、ちょっと微妙な反応を示した。

「チッ……!もうファーストダンスの時間か。リディア、早く帰ってこいよ」

「レーヴェン殿下、リディアのことよろしくお願いします」

「ああ。ちょっとお借りするね」

 兄の怒りもリエート卿の牽制も軽く受け流し、レーヴェン殿下はニッコリと微笑む。
『さあ、行こう』と促す彼にコクリと頷き、私は手を重ねた。
すると、直ぐに会場の中央へ連れていかれる。

 あっ、そっか。
相手は皇太子だから、一番目立つところで踊らないといけないのね。