未来の君主に敬意を表し、厳かに振る舞う中────一人の美少年が会場へ足を踏み入れる。

 腰まである銀髪を後ろで結い上げ、黒い正装に身を包む彼はゆっくりと前へ進んだ。
そして玉座の前までやってくると、クルリとこちらを振り返る。
皇族の象徴であるアメジストの瞳に我々を映し、柔らかく微笑んだ。
中性的な顔立ちをしているからか、妙に神々しく見える。

 彼が……彼こそがデスタン帝国の皇太子であり────『貴方と運命の恋を』の攻略対象者、最後の一人。

(おもて)を上げよ。楽にしてくれて、構わない」

 威厳のある口調に反し、柔らかな声でそう言い、レーヴェン殿下はスッと目を細める。

「社交界の幕開けである春の祝賀会へ、ようこそ。そして、これからよろしく頼むよ。私も本日より、正式に社交の場へ参加することを認められた身。諸先輩方の伝統や誇りを胸に刻み、紳士らしい振る舞いを心掛けよう」

 まず大人達に挨拶を済ませ、レーヴェン殿下は僅かに視線を下げた。
まだ幼く、小さい子供達(私達)を視界に入れるために。

「また、私と同じくデビュタントを迎えた諸君。まだ右も左も分からないと思うが、共に成長していこう。この国をより良いものにするために。君達は私の同志であり、ライバルだ。互いに切磋琢磨し合いながら、交流を深めて行ければと思う」

 『仲良くしよう』と明るい声で言い、レーヴェン殿下は私達の緊張を優しく(ほぐ)してくれた。
ホッとしたように息を吐き出す私達の前で、彼は侍女からワイングラスを受け取る。
と同時に、こちらを向いた。
間もなくして私達のところにも果実水やワインが運ばれ、それぞれグラスを手に持つ。

「では、この出会いが掛け替えのないものになることを願って────乾杯」